撰集 気に入った俳句     トップページ (元)へ戻る  
 一度読んで良いと思った俳句も、時の経過とともに忘れてしまいがちなのでこんな形でメモってみました.自分も、いつかこんな句が作れたらと願いつつ、私の思いを代弁してくれている、分かり易い作品を選びました。ときどき読み返すと、自分の好みの俳人、そして自分というものが見えて来たようにも思います。 *「もの」に即すべき(秋元不死男)、「もの」をかくのは私たちが「心細くささやかな存在に過ぎないから、「もの」のゆるぎなさが生きるよすがとなりうる(神野紗希)                                     
                  
 小野島 徹
  
 藁色の空は眠たし桐の花(2024.6.9)           津川先生
   根開きを祝ひて巡る三十三歳(みそさざい)(2024.5.27)  中原先生
   銃声は熊より怖し秋の山(2023.12.10)          津川先生
     
自己解説=ふる里の山で、クルミ拾いをしていたら、近くで鉄砲を撃つ音がして、これは怖いなあと思ったそれだけの話です。熊を狙うのではなく他の獣なのだろうが、誤射でもされたら大変と思い、「俺がイルヨー」と叫んで知らせてみた。が、それでもまた銃声がする。もしかしたら、耳の悪い老人ガンナーなのだろうか、目も悪かったら大変だ、いやガンナーは耳栓をしているから聞こえないのかも知れないなどと危険な想像ばかりが膨らんで、で、ますます怖くなったのでよく記憶しています。
 時まさにウクライナやガザで戦闘が続いているときであり、銃声をその音として深読みしてもらってもいいかなと思っています。また、掲載されたのが、丁度真珠湾攻撃の記念日の翌日12月10日であり、偶然とはいえ面白い巡り合わせだなあと小さな感動を覚えます

   寂しめばぬつと顔出す犬サフラン(2023.11.12)     中原先生
   海の日は山山の日は海に死者(2023.9.10)  中原先生 一席
   
 評;海の日と限ったことではないが、大抵子供が溺れ、男親が助けに行って子供は助かったのに父親が犠牲になる事故が」          多い。海の日も山の日もこころして出かけなければである。
   逸るとも夕暮遅し蛍狩り(2023.8.28)        中原先生
   万緑や石の地蔵も歳とりぬ(2023.8.13)       中原先生 
   きのこ菌打てば谺す春の山(2023.5.22)       中原先生
   
 評;椎茸栽培で原木に菌を打ちつけて、待つ。春の山だから”春子”と呼ばれるモノでなく肉厚の”冬子”なのか 。
        長閑な春の山にも谺が小半時。

   除雪車のタイヤと並び背比べ(2023.3.28)      中原先生
   名月や遠くに小さき原発灯(2022.10.31)        黒田先生
   散る前の花が教へるしづ心(2022.6.6)         中原先生
   手紙書く指に菊の香立ちにけり(2021.12.6)     黒田先生          
   巻耳(おなもみ)の付いて離れぬ両軍手(2021.11.14)中原先生
   葛の葉の巨獣が続くローカル線(2021.11.7)    中原先生
   夜会草逢へば嫉妬の蛾が来たる(2021.10.10)   中原先生
   木の蔭に口開け涼む夏鴉 (2021.9.20)       黒田先生
   悪友の澤瀉に泣く山田かな(2021.9.12)      中原先生
   夕闇に早くも夜這蛍かな (2021.8.2)        中原先生
   草刈れば腕に掴まる昼蛍(2021.7.26)        黒田先生
   カラスビシャク口から黒いお経かな(2021.7.11)(2021.10.18)  中原先生  秀逸
     評 半夏生の元にもなっている植物、烏柄杓(ハンゲ)を読んだ、植物の蕊の形から”黒いお経”と詠んだことに仰天、凄いと思った。
   コロナ禍や黄金週間読書の日(2021.5.31)     黒田先生  
   連れ立つも末は別るる蒲穂綿(2021.5.10)     中原先生
   新藁の香りを愛でて干支細工(2021.3.1)      中原先生  
   明らかに一羽と分かる兎跡(2021.2.)        中原先生
   狐火や屋号提灯ありし頃(2021.2.8)         中原先生
   色鯉の変はる配列秋高し(2020.11.16)       中原先生
   さわやかな別れ復縁蓮葉水  (2020.9.13)    中原先生
   ダルマサンガコロンダ遊び蝉が鬼(2020.9.7)    中原先生
   選ばれし句並べ諾ふ吾が獺祭(2020.8.16)     黒田先生
   ネモフィラの丘そのまま空へ融け込みぬ(2020.6.22)中原先生
   螺髪なる幼な大佛ツクシンボ (2020.6.8)     中原先生
   お隣りへ梅見吟行小半時     (2020.5.4)  中原先生
   アンテナに土鳩来たりて春を告ぐ(2020.3.23)  黒田先生
   ドンと落つあれは屋根雪春の音(2020.3.15)  中原先生
   ぷらぷらと帰る下校児冬茜    (2020.1.27)  黒田先生
   ハヤクカエツテゴメンナサイと盆の孫(2019.9.23)黒田先生
   肩越しにピュッと挨拶初燕     (2019.5.27)  黒田先生
   ビル高し仏花のごとき桜かな   (2019.5.6)   中原先生
   雪祭り終えてこれから雪の春   (2019.3.25)  黒田先生
   野辺送り雪降る先に晴れ間見ゆ (2019.3.11)  中原先生
   時雨もて空が萱野を押し潰す   (2019.1.21)  中原先生 
      「てふ」を御添削
   新年や孫の足音タタタタタ      (2019. 1. 1)  黒田先生・入賞3席
     
 評;足音タタタタタに嬉しさと幸福感があふれて。
   真向かえば心を抉る雪の富士  (2018.12.9)  黒田先生 
      *「まじろがず」を「真向えば」に御添削
   ラディッシュは若き舞妓の下唇   (2018.10.29) 中原先生
   夜は星朝は青田の玉の露     (2018.9.3)   黒田先生
   雪解けて電動カート村を行く    (2018.5.14)  黒田先生
   柏手を打てば落ちさう松の雪    (2018.1.29)  中原先生
   虫喰はぬ漆紅葉の孤高かな    (2017.11.20) 中原先生
   歳月の色は重たし障子替え     (2017.10.6)  黒田先生
   邯鄲に見つけてみよと鳴かれけり (2017.10.30) 中原先生
   花の日は僅か一日落花生      (2017.10.22) 黒田先生
   疲れたる足に優しき竹落葉      (2017.10.2)  黒田先生
   極楽はお堂の下の蟻地獄      (2017.8.28)  中原先生
   啓蟄や一歳の孫寝返りす  (2017.4.24)(10.9)  黒田先生・俳壇賞佳作
    
 評;慈愛とよろこびの炸裂した瞬間(選評)
   盆栽の鵙の速贄棄て難し      (2017.2.6)   中原先生
   履くものはさまざま秋の投票所   (2016.12.5)  中原先生
   我がものでなけれど嬉し稔りの田  (2016.11.7)  中原先生
   恃むのは自分だけなり蝉脱皮    (2016.10.2)  黒田先生
   手につきし蛍の燃ゆる匂ひかな   (2016. 8.22) 中原先生
   朝まだき葛の葉裏に鬼がゐる     (2016. 7.25) 中原先生
   指先に心地よき音蕨摘む       (2016. 7. 4) 中原先生
   落ちてなほ大輪となる椿かな     (2016. 6.20) 中原先生
   着ぶくれてペンギンのごと雪老女   (2016. 2.22) 黒田先生
   初雪に素手で触れ得ぬ気品あり   (2016. 1.18) 黒田先生
   ガラス窓元気に叩く冬の蠅      (2016. 1.11) 黒田先生
   刈り終えてなほ立ち尽くす電波塔  (2015.12.13) 中原先生
   枕辺に虫籠置いて聴き納め       (2015.12.  6)  黒田先生
   道譲る平和志向の鬼ヤンマ      (2015. 9.21) 黒田先生
   青紫蘇を水に浮かべて夕涼み    (2015. 9. 7) 黒田先生
   昼酒を咎めてゐるか行行子      (2015. 7.12) 中原先生
   雨水雨鯉が見てゐる聞いてゐる   (2015. 3.31)  黒田先生
   静かなる老々の家雪の夜       (2015. 3. 9)  黒田先生
   雪を掻くブルのうなりに安眠す    (2015. 2. 8)  黒田先生
   筆頭と言ふべし冬の花蕨       (2014. 12.29)  中原先生
   ブナ林の落ち葉の径で同級会    (2014.12.22) 黒田先生
   孤食する男を見るな窓の月       (2013.10.14) 中原先生


秋元不死男
   白壁の浅き夢みし蝶の昼
   チチポポと鼓打とうよ花月夜

安住 敦 
   短命の螢に老はなかるべし
   子を産みに子が来るや若楓
   手に負へぬ萩の乱れとなりしかな
   鈴虫の生くるも死ぬも甕の中
   枯れにけり牡丹と言はず萩と言はず
   墓の辺の寒さ死はかくもさむからむ

浅井陽穴

   ひと声のあと移りたり時鳥
   薄雲は崩れず流れ栗の花


天尾壮一郎 
   目に毒なほどの日差しや越に春(2022.5.2)
   コスモスは野原のメトロノームかな(2021.11.22)
   雑草と括られ遺憾小判草(2021.7.11)
   鳳仙花弾け女子高二年生(2017.10.16)
   雑草の連合軍に挑む春(2016.6.12)
安部みどり女
   春めくといふ言の葉をくりかえし
   九十の端居忘れ春を待つ
   山繭のひつかかりゐる枯枝かな
   鴉にもかへる山あり暖かし

有馬 朗人
   唐紙を開けば月の真葛原
   葛切に透けて幼き日の山河(俳句.2016.2月)
   天国に花満さんと百日紅(俳句.2016.2月)
   白鳥座中天にあり涼新た(俳句.2016.2月)
   生き伸びるべし立冬のごきぶりよ(俳句.2016.2月)
   膝に来る蚊を友にして日向ぼこ(俳句.2016.2月)
   セーターより顔出す向かう側の世に
   山彦となる木苺を口にして(俳句.2014.8月)
   既に我が第四楽章大花野(俳句.2014.8月)
   空の青 こぼれて 深山竜胆
   獅子独活の髯 さはに小花つけ
   銀やんま ジュラル紀の 空の青さかな 俳句2011・11月 
   流木に 一炊の夢 糸蜻蛉       俳句2011・11月 
   返り来る 木霊は 月の遠くより    俳句2011・11月 
   古日記 あの時が 我が関ヶ原    朝俳2012・1月
   ふと思ひ出したることも 初昔     (俳句2010・1月 )
   ゆつくりと智慧を巻き上げてねぢれ花
   秋の寺華やぐはたゞ死の時のみ


有吉  桜雲
   三羽てふ不思議な数の寒鴉
   大凧のひとゆらぎして地を離る
   逃げの野火叩かれてより攻めの野火
   杭とんぼ杭一本の奪ひ合ひ


五十嵐貞示

   考がいて妣がいる日や盂蘭盆会(2023.8.28)
  アルバムの古びし夏に彼の女(ひと)も(2023.8.7)
   常緑も混じればこその紅葉山(2020.10.20)
   摘蕾も摘花ものがれ木守柿(2020.12.13)
   早春やわれにも欲しき発芽熱(2019.2.18)
   なめくぢら戻れぬ道を光らせて(2018.9.9)
   鬼も来ぬ陋屋なれど豆を撒く(2018.2.4)
   筏師を乗せ忘れしか花筏(2018.4.30)
   潜みても陽に暴かれし蜘蛛の糸(2017.10.16)
   物音の先尖らすや冬ざるる(H29.2.12)
   炎天に斥候蟻の単独行(H28.7.25)
 
五十嵐 翼
   八月や地球にいまだ核兵器(2022.8.15)
    夏見舞いくわへ駆け寄る介助犬(2022.7.24)
   語り手は強きまなざし終戦日(2020.9.7)
   小夜風や田打ちの匂ひ吾にとどく(2020.6.1)
   原爆忌脳裏に穿つ黒い雲(2018.9.3)
   福島忌君に届かぬホワイトデー(2018.4.23)  
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飯島 晴子
   蓑虫の蓑あまりにもありあはせ
   月光の象番にならぬかといふ
   天網は冬の菫の匂いかな
   拝みたき卒寿のふぐり春の風
    (初湯殿卒寿のふぐりのばしけり 青畝)

飯田 陀忽
   山河はや冬かがやきて位に即(つ)けり
   郭公啼くかなたに知己あるごとし
   炉がたりも気のおとろふる三日かな
   採る茄子の手籠にきゆうとなきにけり
   雪山を這いまはりゐる谺かな
   極寒の塵もとどめず岩ふすま
   死骸や秋風かよふ鼻の穴
   芋の露連山影を正しうす
   くろがねの秋の風鈴なりにけり
   たましひのたとへば秋の蛍かな
   をりとりてはらりとおもきすすきかな


石田波郷
   金木犀午前の無為のたのしさよ
   吹きおこる秋風鶴を歩ましむ
   バスを待ち 大路の春を うたがはず
   泰山木巨らかに息安らかに 
 (朝俳2003・6月)
   春雪三日祭りのごとく過ぎにけり
   薄羽かげろう翅も乱さず死せるかな
   秋の暮溲罎(しゅびん)のこゑをなす
(角俳2010・10月)

伊藤 悠峰
   寒の鯉座禅の域を超えにけり(2022.3.21)
   やがて来るものを待ちゐし冬囲(2022.1.24)
   青虫の糞の真みどり夏闌ける(2020.8.16)

   吊るされてより玉葱の余生とも(2019.8.5)
   雪女座禅の壁に耳立てて(2019.3.18)
   大鍋に一夜の熟睡(うまい)のつぺ汁(2019.2.11)
   雪女好みの気圧配置かな(2018.3.19)
   大根引く鞘は畑に残しけり(2017.2.6)

伊藤伊那男
   春の月 吊る絡繰りの あるごとし
   学校の 丸ごといまを 目借時


石川 桂郎
  
かなかなや腹のヘリても食細し
   みこまれて癌と暮らしぬ草萌ゆる

今井 誠一
   孑孑の文字ぼうふらに見えにけり (201?。9.19)
   鳴き慣れて老鶯なほも手を抜かず (2017.7.11)
   襖絵の濤の逆巻く余寒かな      (2016.4.4)
   残り香も移り香もなく雪をんな    (2016.3.14)
   湯豆腐の四角四面の脆さかな    (2016.3.7)
   生き上手こぞりて集ふ年忘      (2016.2.1)
   白桃の種くれなゐを宿したる    (2015.9.28)
   義理一つ果たし風邪をば貰ひたる (2015.3.23)
   人生の九割を来てすっぽん鍋    (2015.3.16)
   元日の清らなる雪掻かずおく    (2015.2.23)
   運勢を足して二で割る初みくじ    (2015.1.1)
   弁慶を軽々抱へ菊師来る      (2014.12.14)
   蓑虫や我も宛行扶持の衣よ    (2014.11.24)
   きれぎれになりし蚯蚓の魂どれに  (2014・9.15)
   月おぼろなれば地球もおぼろなる  (2014・6.16)
   喜々として選果機くぐる実梅かな  (2014.7.28)

   スキーヤー天より零れくる如く    (2013.2.18)

茨木 和生
   青空のくわりんひとつはづしけり
   万年も 前もこの岩 山桜


稲畑 汀子

   今日何も彼も なにもかも 春らしく

   野の花に 醜草(しこくさ)はなし 犬ふぐり

岩岡 中正 
   あらがふもうべなふも秋風の中  (N俳 2012.11月)
   枯野ゆくとき夜盗めく二三人   (N俳 2012.12月)
   凛々と月あり一会美しき     (N俳 2012.9月)
   続々と大根の寄せ来る墓標   (俳句2014・3月) 
   船団のごとくに鴨さかのぼる   (俳句2014・3月) 
   木の洞に年行て年きたりけり   (俳句2014・3月 
   火へ現(うつつ)のかほをあつめたる  (N俳 2012.8月)

宇多喜代子  <表現は平明に、内容は深く>
   男から老い男から死ぬ小春
   生きていること思い出す夏座敷
   燕くる空を綺麗にして待てば
   なによりの時なによりの初湯かな
   大きな大きな木陰夏休み
   終戦と言へば美し敗戦日
   列島を 半分に断つ 夏燕      (角俳2011・9月 「円心」
   立春の 今日あれをして これをして
   主義主張 異なつて よき花見かな
   幽霊も 一人二人と 数えるべき
   髪洗うまでの 優柔不断かな
   熊の出た話 わるいけど 愉快
   蚊帳の中 いつしか 応えなくなりぬ
   長き夜を贅のかぎりと思いたり    (俳句2012・11月) 
   またここへ戻ると萩に杖を置く    (俳句2012・11月) 
   秋風も人語も笊をつつぬけに    (俳句2012・11月) 

上村一九路
  
大根引く諸肌ゆたかなるを引く(2022.1.31)
   乱るるも零るるもよし萩の雨(2020.12.7)
   蝉の字の禅に似たるや樹下に座す(2017.10.16)
   ひとけ無き公園に来て穴惑=へび(2017.12.4)
   明易しこの静かなる無為の時(2017.8.15)
   我が妻の強欲を知る蕨山(2017.6.11)
   君逝きて里を鎮めし春の雪(2016.4.25)
   鱈汁の鱈の身白き寒の入り(2016.2.29)


上田日差子

   一湖一水 白鳥の白 埋めつくす
   大白鳥 身を飾るもの ひとつなし
     (俳句2011・1月 )  
   立つことは 枯れてゆくこと 大はちす  
(俳句2011・11月)
   さざなみの形にひろごる春愁
(はるうれい)  (俳句2011・11月) 

于咲 冬男

   ダイヤよりまたルビーより茨の実
   大花野誰にも入って欲しくなし (朝俳2003・11月)

大島いと女
   どくだみや暮れて十字の浮遊する(2021.7.11)
   ごきぶりの追はねばならぬ速度かな(2019.7.15)
   炎昼へ水族館より暗さ曳き(2019.8.5)
   風鈴を吊し夜風を喜ばす(2019.9.2)
   もの言へばぺこんぱこんとマスクかな(2019.5.20)
   あらぬ方へと消雪パイプ初めかな(2018.4.8)
   上品に言へば今宵は茄子づくし(2017.8.21)
   亀鳴くや骨董店の暗がりに(2016.5.2)
   雪吊りの縄に湯気立つ日向かな(2016.3.21)


大峯あきら
   人は死に竹は皮脱ぐまひるかな
   白日を掠めて桐の一葉かな
   草枯れて地球あまねく日が当り
   虫の夜の星空に浮く地球かな

小黒  大
   
磯山へのぼれば聞こゆ春の潮  (2016.3.21)
   秋空を吾がものとして一人旅   (2015.11.2)
   千年の後もこのまま虫時雨    (2015.11.2)
   蝉時雨少年の日に迷ひ込み   (2015.9.13)
   大寒や一歩退き衿立てて     (2015.2.1)
   振り返り俗世に一礼して登山   (2014.11.3)

大石 悦子

   山翡翠をのせてしないひし山桜
   勝鬨を上げさうな毒茸なれば蹴る
   
星一つこぼさずに年逝きにけり
   昇りきしオリオンの剣したたりぬ
   あらたまのあらひたてなる海の星
   滄浪や天狼星は座につきぬ
   オリオンに一献シリウスと一献
   をとめごのこゑのさざめく六連星

大田 空賢 
   切りし枝も役立て庭の冬囲ひ(2021.12.27)
   生徒らの夢語る輪や日脚伸ぶ
(2020.4.20)
   樏の跡独り居の無事の跡(2017.4.8)
   墓の字を白字に変へて吹雪き止む(2017.2.20)

大野 林火
    物置けばすぐ影添ひて冴返る
   
墓場にて人を呼ぶ声牡丹雪
   あをあをと空を残して蝶別れ

大串 章
   八朔の鴉物言ふごとく鳴く(季のうた)
   枯れしこと忘れて一樹立ちつくす 
(角俳2014・1月 「綿虫」)
    牛小屋の奥まで夕日冬ぬくし    (角俳2014・1月 「綿虫」)

大嶋 道子
   老主婦の戸口の雪を掻きしのみ   (、2014.2.24)
   春日差し干したきものはまづ私   (2014.4.13)
   沙羅の花白きブラウス軽き靴     (、2014.7.28)
   寝そびれて雪積む気配ひしひしと (2013.2.18)

岡田 日郎
   お花畑一華一華に風渡る(俳句2008・10月) 
    枝しなひきぶしの金の鎖垂れ

岡本 眸  
   身を包む紺の深さも帰燕以後
   はろかなるものに昨日と桐の花
   コップにパセリ身辺雨季に入りにけり
   残りしか 残されゐしか 春の鴨

   犇(ひしめ)きて 椿が椿 落としけり
    温めるも冷ますも息や日々の冬 
   
小越 忠教  
   静謐の白鳥の来てをりぬ(2023.4.16)
   玻璃に在る吾が着ぶくれのわびしさよ(2019.1.28)
   雑草と勝手に決めて草を引く
   白鳥の飛び交ふみ空野辺送り
(、2013.10.7)
    白鳥の知らぬまに去り村閑か(、2014.4.28)
    親鸞の越後路桐の花高し   (句2014.7.6)
   
鯉幟一竿のみや村百軒   (句2014.6.30 )
   
隊なせるダビットソンや晩夏光(、2014.10.20)

小原 啄葉

   くりかへし 戦を語れ 閑古鳥
   脱ぎ捨てし ものの中より 仔猫かな
   初鴉拾ふ神とし来て呉れし     (角俳2014・1月 「ふくさ藁」)
   海へ出たがる初凧の糸ゆるす    (角俳2014・1月 「ふくさ藁」)
   雪渓に 降り出す雨や 靄の中    (角俳2010・10月)
   みんみんの 声満てりけり 天も地も (角俳2010・10月)


小野塚 健
   百落ちて百の個性や木の実落つ(2023.12.4)
    何者も通さぬ構へ真葛原(2023.11.20)
   白桃に子午線のごと刃を入れん(2023.10.2)
   万緑や嶺を走るは山毛欅の列(2023.8.7)
   雪野には松の一樹のあればよし(2020.3.9)
   桑の実を含めばやがて少年期(2018.7.16)
   いくたびも名残りの雪と名づけたり(2017.5.15)
    移りゆく木の影うれし春障子(2017.5.29)
   深紅よりいでて酸葉の深緑(2017.6.5)
   真清水の音にも味のありにけり 2011.7.25
   言葉さへ蒸発したる炎暑かな(2013.9.2)

加藤楸邨
   生きてあれ冬の北斗の柄の下に   
   木の葉ふりやまずいそぐないそぐなよ
   しづかなる力満ちゆきばつたとぶ
   玉虫はおのが光の中に死にき
   きらきらと目だけが死なず鬼やんま
   花を拾へばはなびらとなり沙羅双樹

加藤呵々平

   目の合いし蜻蛉しばらく従いて来し(2023.8.28)
   凌霄や人無き昼の深さかな(2023.11.6)
   髪切って秋の初めとまみえけり(2023.10.30)
   「ほたる見に来よ」ただそれだけの葉書かな(2023.8.7)
   枯萩や野辺も岬も風の佐渡(2022.12.19)
   どんぐりの踏まれしを踏む無残かな(2021.1.11)
   冬温し昔は藁の匂ひけり(2021.1.11)
   葛の葉や中にあるらし無縁墓(2018.12.9)
    砂浜にサンダル晩夏への供物(2018.4.8)
    秋天や鳶は飛行機雲なさず(2017.12.4)
    佐渡までを波路の友や今日の月(2015.11.23)
    虫の音のことごとく闇制覇せり(2014.11.24)


嘉代  祐一
   榾返すたびに火の子のひと騒ぎ(2023.4.16)
   刈り上げた田をほがらかに月渡る(2022.11.28)
   青胡瓜青き我等を見るやうな(2022.87)
   啓蟄や人はトンネル掘りつづけ(2022.5.8)
   打水に重ねて影を休ませる(2021.9.6)
   朝顔に合はす顔なき朝寝かな(2020.11.16)
   毎日が祝祭のごと稲雀(2020.11.8)
   明易や二度寝許さぬ明るさに(2019.8.12)
   立ち姿かくあるべしと夏の雲(2017.7.24)
   ぶらんこの錆の匂ひの手と帰る(2018.6.4)
   老人の日を喜ばず老いにけり(2016.10.24)


桂  信子

     裘(かはごろも)銃身に似し身をつつむ
   誰がために生くる月日ぞ鉦叩
   ひとり臥てちちろと闇をおなじうす
   青空や 花は咲くことのみ 思ひ (俳句2012 ・5月)
    ゆるやかに着て ひとと逢ふ 蛍の夜
   ふところに 乳房ある 憂き梅雨ながき
   虚空にて 鷹の眸 飢えてきたりけり
   心太 みづうみ 遠く煙りたる
   忘年や 身ほとりのもの すべて塵

鍵和田柚(のぎへん ゆう)   
   塔仰ぐ屈反らせば秋の風        (角俳2014.11)
   背光陰のゆたかにながれ蓮は実に
  (角俳2014.11)
   風 いまだ薄刃のごとし 春耕す

   元日の 鯉群れたる しづけさよ   朝俳2012・1月)
   
片山由美子 
   
花束に欲し樹氷となりし枝
   フィヨルドの漆黒へ雪呑まれゆく
   冬夕焼ムンクの描きたるままの
   ポケットの底の銀貨凍りつく
   たちまちに 天の雲雀と なりしかな
   まだもののかたちに雪の積もりをり

加藤 楸邨  
   灯を消すやこころ崖なす月の前
   三日はや峡のこだまは炭曳くこゑ
   ひとつひとつ栗の完結同じからず
   木の葉ふりやまず いそぐなよいそぐなよ
俳句2007・10月 )
  
 雉子の眸の 皓皓として 売られけり
   鮟鱇の 骨まで凍てて ぶちきらる
   しづかなる 力満ちゆき(ばった)とぶ

角川 春樹

   黄泉平坂一騎駆けゆく花月夜
   あかあかとあかかとまんじゅしゃげ
   しらむめにかざはなのふるゆふべとも
   おのづから櫻ささやきゐたるかな
   ひと亡くて山河したたる大和かな

加野  康子
   母の日や母は元気を子に贈る(2023.6.11)
   蠅もも子も無垢のままにて生まれけれ来し(2022.6.27)
   命日のなき兵あまた終戦忌(2021.9.27)
   一息をつく/雪降らぬ日の/団欒(2021.2.22)
   汗火花四方へ飛ばし鉄を打つ(2020.10.26)
   入り易く出がたき穴といふ炬燵(2020.3.23)
    鈍行車月も各駅にて止まる  (2019.9.16)
   海の風青田の風に朱鷺の舞ふ(2019.6.17)
   空っぽや雀の担桶(たご)と野の壺と(2017.10.2)  
糞尿容れる桶
   山男逝きし峰雲踏破して   (2016.10.24)

金子 兜太
   梅咲いて庭中に青鮫が来ている
   妻病みてそわそわとわが命あり
   禿頭を野鯉に映す夏が来た
   燕帰るわたしも帰る並の家
   熊ん蜂空気につまずき一回転
   二十のテレビにスタートダッシュの黒人ばかり
   山峡に沢蟹の華微かなり
   霧に白鳥白鳥に霧というべきか
   きょお!と喚いてこの汽車はゆく新緑の夜中
   強し青年干潟に玉葱腐る日も
   木曾のなあ木曾の炭馬並び糞(ま)る
   なめくじり寂光を負い鶏のそば
   地熱さめやらず夜蟬の鳴きやまず
   被曝の人や牛や夏野をただ歩く
   青春の十五年戦争の狐火
   姥捨は緑のなかに翁の影
   水脈(みを)の果て炎天の墓碑を置きて去る
   原爆許すまじ蟹かつかつと瓦礫歩む
   銀行員や朝より蛍光す烏賊のごとく
   湾曲し火傷し爆心地のマラソン
   酒止めようかどの本能と遊ぼうか
   よく眠る夢の枯野が青むまで
   木は気なり黒姫山に雨が降る
   曼珠沙華どれも腹出し秩父の子
   おおかみに螢が一つ付いていた(東国抄)
   今を生きて 老い思わず 去年今年
   病院の影のび耕す人帰る

 金子  博文
   
寒林に射し込む百の日の矢かな(2019.2.25)
   開闢のごと犇めくや春の星(2018.5.28)
   蟋蟀が星の言葉で鳴き出しぬ(2018.4.8)
   飛ぶ鳥を紙きれとせり春疾風(2018.4.16)
   複眼に夢を見てゐる蜻蛉かな(2017.10.16)
   つぎつぎに光華となるや草の絮(2017.11.12)
   かたつむり野道を渡る大旅行(2016.7.4)
   金尾梅の門日ざし来てちり怺へたる銀杏かな

上山   勧 西蒲区 
   不確かな世に変らない青い空
(20206.29)川柳
   かけて来る少女と犬と初夏が
(2020.6.29)
   不機嫌の塊となり暑へ向かう
(2019.9.2)
   鈍色の空のどこかに初雲雀
   雀語を訳せばきつとおお寒い
(2013.2.18)

川端 茅舎

   どくだみや真昼の闇に白十字
   麗
(うらら)かや 松を離るる 鳶の笛

   ぜんまいののの字ばかりの寂光土
   葱の花 ふと金色の 仏かな

北村   保

    元日の昼まで顔の寒きかな
    ときどきは凭れ合うたり紙の雛
    陶たぬきどこで春泥付けて来し
    ひとつ二つよそ見してゐる葱坊主
    椋鳥の一羽でゐるは不安なり
    風の日のよく弾みたる木の実かな

蔵品  隆 
   兵児帯に両手をはさむや釣忍(2023.9.25) 
*取り合わせ?
   常ならぬ雲の往き来や半夏生(2021.8.2)
   毛虫急ぐ不要不急の用もなく(2020.7.9)
   恙なき日向の景や豆叩き(2019.11.29)
   充電をせしやに離る焚火かな(2019.3.11)
   牡丹散る芝居かかると思ひけり(2018.6.4)
   地上絵の半ばと見ゆる蜷の道(2017.7.3)   
 
倉島   一  
   ロシア語をつぶやいているずわい蟹(2016.2.1)

   
ゴゼ(漢字)に似し榛の一列雪しまく(2017.4.17)
   ふたまたの大根にある主従かな(2017.1.23)
   丸まって一芸見せる毛虫かな(H28.6.27)
   蟋蟀の心底暗き眼を持てり(、2014.11.24)
   新涼の灰美しき火種かな(、2014.11.3)

草間 時彦
    入院やもうあきまへん秋の暮
   散る前の折り目崩れし牡丹かな
   男老い十薬叢に沈みけり
   あぢさいの青き翳さす障子かな 
   やすらかに死ねそうな日や濃山吹
   物忘れものわすれ冬深まりぬ
   クロッカス光を貯めて咲きにけり


黒田 杏子

   花満ちてゆく鈴の音の湧くやうに  
   曽祖母の雛祖母の雛みどりごに(日光月光)
   一の橋二の橋ほたるふぶきけり
   摩崖仏おほむらさきを放ちけり
   狐火をみて命日を遊びけり
   十二支みな闇に逃げ込む走馬灯
   山姥と夏蚕のかほと相似たり
   日に透けて流人の墓のかたつむり「木の椅子」
   白葱の ひかりの棒を いま刻む(「木の椅子」)
   なほしばし この世をめぐる 花行脚
   咲き満ちて 西行櫻 月満ちて(「俳句」2012 4月)

小林 湖村

  
 降る雪を白鳥の舞ふ白白と(2020.3.23)
   大白鳥帰る光の帯帰る(2019.4.8)
   白鳥の夜を啼きゆくや切れ切れに(2017.12.25)
   水澄んで親鯉子鯉列をなし(2017.8.15)
   春暁の障子に鳥の影一羽(2017.4.17)
   白鳥の五十羽の眼に見つめらる
(2016.2.1)
   白鳥の五千羽もいて嘆きけり
(2016.1.18)
  
 頷いて白鳥吾に近付けり(2015.12.28)
   空青く飛行機雲に白鳥来
(2015.12.13

小林 一茶
   猫の子がちょいとおさへる落ち葉かな
   ゆさゆさと春が行くぞよのべの草
   青空にきず一つなし玉の春
   花げしのふはつくやうな前歯かな
   恋い猫や互いに天窓(あたま)はりながら
   梟よ面癖直せ春の雨
   屁くらべが又始まるぞ冬籠
   春の月さはらば雫たりぬべし
   死ぬ山を目利きしておく時雨哉
   虫どもにとしより声はなかりけり
   白髪同志
(どし) 春を惜しむも ばからしや
   山入りの供(とも)仕(つかまつ)れ ほととぎす
   雪とけて 村一ぱいの 子どもかな
   笠程に 雪は残りぬ 家の陰
   蕗の葉に 煮〆配りて 山桜
   蝶とんで 我が身も 塵のたぐい哉
   子どもらも 頭に浴びる 甘茶かな
   岩(いわほ)には 疾(と)くなれ さざれ石太郎
   畠打や 子が這ひ歩く つくし原
   いうぜんと 山を見る 蛙かな
   大の字に 寝て涼しさよ 淋しさよ
   我国は 草もさくらを 咲きにけり
   月光の 満ちゆくかぎり 蕎麦のはな
   団栗の 寝ん寝んころりころりかな
   有明や 浅間の霧の 膳をはう
   大根引き 大根で 道を教えけり
    是がまあ つひの栖か 雪五尺
   春の野辺 橋なき川へ 出でにけり
    露散りて 急にみじかく なる夜哉
   しづかさや湖水の底の雲の峯
   梅が香に障子開けば月夜かな
   父ありて明けぼの見たし青田原
   ぼんのくぼ夕日に向けて火鉢かな
   ざぶりざぶり雨降る枯野かな
   夕桜今日も昔になりにけり
   空豆の花に追われて衣更
   永の日を食ふやくはずや池の亀
   むまさうな雪がふうはりふはりかな
   這へ笑へ二つになるぞ今日からは

後藤比奈夫
    首長ききりんの上の春の空
   東山回して鉾を回しけり
   若駒にいくらでもある牧の草
   座禅草なり
つくづくと座禅草
   踊るなりデカンショ節をはんなりと(角俳 2015.12月)
   火をつけてやりたきほどに枯れしもの
 
   人の世の やさしさ思ふ 花菜漬
  
     いろいろと ありたる年も 初昔  朝俳2012・1月)
   棚曳ける雲の待ちゐる初日の出
 (句朝日2012・1月)
      

後藤  伸行
  
 椿咲きてこれより先は無縁墓地
   如月の語(ことば)のこぼれ犬ふぐり
   犬ふぐり小さき瑠璃の冬日かな
   幻の京にかかれる冬の月
   水の面に光りて消ゆる春の雪
   杉の間の暗きより出で春の蝶
   一本の枯れ木の浮かぶ月夜かな


齋藤 凡太 
   青嵐老いて折れるな句をたたけ  (2020.6.29)
   通院の吾を励ます青田道
       (2019.7.1)
   令和とて忘れてならぬ終戦日
    (2019.8.26)
   日除け作れば豪雨のつづく間の悪さ
(2019.81.12)
   病得て人生一服花を待つ
      (2019.5.20)
   山眠る起きて出て行く夜の海
     (2018.1.8)
   鮭追へば無理はするなと濤の声
  (2018.11.6)
   夕映えの海より眺む冬紅葉
     (2018.1.22)
    
焚火して漁夫の大声濤鎮め     (2018.1.15)
    
年惜しむ人生有限句は無限    (2018.12.25)
    
老蟹の二の足踏む冬の海     (2017.12.18)
   
浪音の湊星見る神無月      (2017.12.10)
   
三伏や動けることを天に謝し    (2017.8.28)
   
寒風に時を違へず日の昇る
    (2017.1.16)
    
老蟹の舟出見守る寒昴        (2017.1.23)
   時化る海声掛け合うて春を待つ
   (2017.2.6)
   萱刈りて星の輝く空仰ぐ       
(2016.12.5)
   流星や九拾年を一跨ぎ      
(2016.10.24)
   新涼や背筋を伸ばす波の上   
 (2016.9.19)
   春の虹鳶の笛聞く舟だまり
       (2016.5.9) 
   
梅雨に入る不平不満の無けれども(2016.6.20)
   眠る山起きろと叫ぶ春一番
     (2016.3.28)
   春風に心開いて深呼吸     
 (20156.4.18)
   寒雷に猫も炬燵をころげ落つ
    (2016.2.29)
   老蟹の妄想描く寒夕焼
        (2016.2.14)
   鰯雲明日の漁場を教えてよ
     (2015.11.2)
   花散るや過去一切を地に捨てて 
 (2015.5.18)
   かもめ啼く夜の出船に月は春
    (2015.3.31)
   句を杖に越え来し山河風光る  
 (2015.3.23)
   吹く風に戦の匂ひ五月闇
     (2015.10.19)
   春夕焼明日は鯨も釣りたいな
     (、2015.3.16)
   
名月を一人で見ている波の上     (、2014.11.3)
   つばめ来てわれに微笑む日の光
  (、2014.10.7)
   天の川仰ぎ網揚ぐ時間待つ
     (、2013.10.14)
   春障子開けてとび込む波の音
     (2014.5.19)
   石塊と木々の葉我と春惜しむ
      (2014.6.16)
   舟に乗る吾に声かけ鴨帰る
       (2014.4.13)
   秋立つや心の螺子を締め直し
       (2013.9.8)
   さまざまな思ひ噴き出す終戦日 
     (2014.9.1)
   干網を持てば残暑の砂埃
           (2014・9.15)
   深々と暗き波間や梅雨の月        (2014.7.28)

斎藤  君子
   山ガール今山姥となりて朱夏(2021.9.27)
   姫小百合乙女の羞恥かくあらむ(2021.9.6)
   雪晴れにわが身感光紙となりて(2015.3.31)
   誰彼と目視もできぬ吹雪なり
(2015.3.2)

齋藤朝比古
   
痛さうに止むオルゴール夜の秋
   ゆつくりと解く繃帯枇杷の花
   ふらここの影がふらここより迅し
(累日) 
 

佐藤  千仙
   
卑猥なる唄に真実盆踊り(2022.9.26)
   繭売って盆の支度をせし昔(2021.9.20)
   浦島の如く墓参を済ませけり(2021.9.12)
   国籍を得したんぽぽの憚らず(2019.7.8)
   歩哨線蛍に誰何なかりけり
    さなきだに消えさうな村雪五尺(2015.2.16) 
     
   犬と話し猫と相談日向ぼこ
( 2015.1.26)
   三尺の雪を残して初つばめ
( 2014.5.19)
   新素材ハンガーといふ鴉の巣(
2014.7.28)

佐藤村夫子
 
  蕗剝けば悪に手を染めたるごとし(2023.9.25)
   たつたまま靴下履けぬ体育の日
(2019.11.29)
   整形はしていませんと雪女
(2019.3.18)
   皆が皆手のひらかへす焚火かな
(2019.2.18)
   戒名の無き死者二万冬銀河
(20192.11)
   何をしにきたる蠅かと見てをりぬ(2017.7.24)
   重力に風に従順軒つらら
(2018.3.26)

佐藤 豊太郎 
   七草とふ大宮人のサプリかな(2019.2.25)
   雑草と名付けてすべて毟りけり(2017.8.7)
   尾と頭離れ離れに初秋刀魚(2018.11.6)
   人波に流されたくて年の市(2018.1.29)
   鳥帰る五千石碑を下に見て(2018.4.23)
   渡り鳥みるみるわれの小さくなり 
   今日だけの寒九の水を汲みにけり(2017.1.23)
   隙間風又三郎の覗き見か(2016.2.1)
   チルチルとミチルの胸に赤い羽根(2015.11.2)
   検見衆を遠巻きにする雀かな(2015.9.28)
   星合は望遠鏡で覗かるる(2015.8.31)

佐藤 村夫
   夏兆す婦警のポニーテールにも(2017.6.11)
   昼寝して昼寝して母小さくなりぬ(2016.8.15)
   過呼吸に気をつけなされ鯉幟(2016.6.12)
   見ぬふりをして寒鴉なりの距離(2016.4.4)
   長き夜や晩学所詮暇つぶし(2015.12.28)
   木守柿梯子とどかぬだけのこと(2015.11.23)
   日盛を来たるはだかの請求書
(2014・9.15)

沢木 欣一

    治聾酒に酔うて怒り発したる      *この日に酒を飲むと聾が治る
   くちばしの鉞(まさかり)なせり寒鴉
   あめつちのくづれんばかり桜ちる
   ひきがえるバベルバブルと鳴き合へり

西東 三鬼
   おそるべき君らの乳房夏が来る
   やませ来るいたちのやうにしなやかに
   大寒や転びて諸手つく悲しさ    蝮の子頭くだかれ尾で怒る
   水枕 ガバリと寒い冬がある
俳句2008・3月) 
  
 音こぼしこぼし寒析地の涯へ *寒析(かんたく)=寒夜の拍子木 


坂井 要一 江南区

   紙コップ座りの悪しき花筵(2017.6.11)
   一服も庭師の仕事松手入れ(2016.10.10)
   水馬考えありて桂馬とび(2016.8.1)
   植田はや根付きて風と遊びけり(H28.7.11)
   退屈も贅沢の中春炬燵(2016.5.9)
   ひとたびは見たし逢いたし雪女(2016.3.7)
   逝くときが我の停年落葉掃く(2016.1.11)
   果てるまで急がずあせらず草を引く(2015.10.26)
   佇めば焦げぬばかりや早稲熟れて(2015.11.2)
   夕食の声のかかるを待つ端居(2015.9.28)
   珍しく客あり木瓜の綻びる(2015.4.20)

桜井  貞夫
   
鶯のこゑ元気なり山仕事(2020.4.6)
   過疎もよし平和な住み処山粧ふ(2019.12.2)
   年寄りの暮らしは平和雲の峰(2018.8.27)
   馬追が枕頭の来て畏まる(2017.10.22)
   冬籠りねむたき時また眠り(2016.1.25)
   虫時雨友の逝きたるその日より(、2013.10.14)
   田水沸く広島熱し長崎も(、7.28)

佐野 雨草
   空蝉の生る木に弾む園児どち(2021,9,12)
   草虱撮り終へてから鍬洗ふ
(2020.11.16)
   諦めが悟りに化けゆく熱き燗
(2020.3.9)
   冬の雷もしかして兜太翁の檄
(2019.2.11)
   三人の記憶綯い交ぜどぢゃう鍋
(2018.8.27)
   名残り雪いのち相見る兜太の句
(2018.3.19)
   人知れずシーサー老ゆる沖縄忌
(2017.7.3)
   落ちこぼれと思へぬ果梨落ちてをり
(2016.1.18)
   燕去りもとの一人にもどりけり
(201510.26)
   夕刊の声にこほろぎ鳴き始む
(2015.10.26)
   声かけて留守居をたのむ金魚玉
(2015.11.2)
 
    梅干して笊に留守番頼みけり(2013.9.8)


齋藤  志津
   
みみず出るまっすぐにまず背伸びする(2020.6.8)
   とりあへず蛇住むあたり藪払ふ(2019.7.15)
   どくだみの花を見てから引くつもり(2015.7.12)
   寝ころんで夏の空見て籠りけり(2015.8.31)
   濃紺の丸ナスに我映りけり(、2013.10.7)

白石 美千雄

   冷や奴添へてオクラの五稜郭(2022.10.3)
  玄室を暴くがごとく胡桃割る(2022.2.21)
  春めけど浮き立つ気にはまだなれず(2021.3.15)
   大根を間引くソウシャル・デスタンス(2020.12.28)
   見えぬから怖いコロナと鎌鼬(2020.12.13)
   夏草と折り合いつけて自然主義
(2020.8.24)
   啓蟄や脱ぎたき過去の殻がある
(2019.5.6)
   兜太逝く春の疾風のごとくなり
(2018.3.26)
   何様のつもり小綬鶏「ちょっと来い」
(2017.8.15)
   つぶすほど身上もなく朝寝する
(、2014.10.7)

白井 良二
   静かさに居て時を食む蟻地獄(2021.8.30)
   蘖田の雀百羽を隠しけり(2020.12.13)
   着ぶくれて投句葉書を出しに行く(2020.12.7)
   選り分けて話の弾む茸狩り(2018.10.29)
   チェーンソーの音よく響き日脚伸ぶ(2018.5.6)
   白も黄も枯れれば同じ菊を焚く(2017.12.10)
   病窓に雪馬を見る農夫かな(2017.7.3)
   天高し玩具のやうに家壊す(2016.11.28)
   燕の雪降ってきたと嬰児が告げに来し(2016.2.8)
   冬田道挨拶は手を上げるだけ(2016.2.1)
   紅葉散り山が眠たくなりにけり(2015.12.28)
   鰯雲大作にして未完なり(2015.11.16)
   耕せば少し大きくなる地球(2015.3.31)
   各部屋に百円眼鏡置く夜長(、2014.12.14)
   諍ひし事はさておき良夜かな (2014.11.17)
   新年の顔して猫の通りけり(20131.1)

白倉 耕衛
  
 はだれ野を友の棺がかすむまで(2021.3.15)
   凍星に身をこわばらせ厠まで(2019.2.18)
   初顔を歓迎の村溝浚へ(2018.6.4)
   咳しても独りとなりし友案ず(2018.1.29)
   筍やまたぎの如き毛皮きて(2018.5.28)

白川  博
   自堕落と自適のあはひ股火鉢(2019.2.18)
   強情のかたち成したる甲虫(2017.7.31)
   辻々に人ごゑのあり夕桜(2017.4.3)
   雀蛤に水産資源研究所(2018.9.17)
   つくしんぼ掴まり立ちの知らせかな(2017.5.15)

   見てくれと言はむばかりの春の苑
   腹いせも少し納豆かき回す
(2016.3.21)
   はるのゆきしきりといへどあえかなり
(2016.3.21)
   
蕭条と蔕残したる柿の枝(2015.12.28)
   退きて活路窺ふ飛蝗かな
(2015.11.8)
   道おしえ熟慮の末の折り返し
(2015.9.7)
   幼き日我をよぎりし草蛍(2014.7.28

地引  永安
    手術跡薄く陰引く立夏かな(2023.6.11)
    雪晴れす家は大きく深呼吸(2022.3.28)
    年齢一つ増して雪の重さかな(2022.3.8)
    山百合の一茎匂ふ村境(2021.8.30)

嶋田  麻紀 
    幸せのぎゅうぎゅう詰めやさくらんぼ

渋谷 道
   
ふたりして気儘な路を蜆蝶
   初蝉の出だし一と声知的なり
   ぬけがらの魂寄り合ふて蝉しぐれ
   旧ポスト裏に茫々合歓の花
   ふと寂し鵯をあざむく啼き真似の
   梔子や香りをつくす夜の絖(ぬめ) 絖=滑らかな絹の一種

  
菅野 恵美子
    源五郎お前も夜の灯が好きか(2020.7.12)
   傾ける空に「さよなら」木の実落つ
(2019.9.23)
   春泥とふ証拠をつれて戻るとは
(2019.3.25)
   小刻みに午睡を増やしやがては死
(2018.7.2)
   万物に万の決め事鳥つるむ
(2018.4.30)
   竜田姫秘湯に時を稼ぎをり
(2017.10.2)
   襤褸切れが飛ぶとぶ風の寒鴉
(2016.2.14)
   栗虫と臍の苦さは噛んでみて(、2014,12,1)
   雪催メタセコイアの直立に(、2014.12.14)
   剪定の序曲にまづは空鋏(、2014.5.19)
   散るといふ美学捨てたる四蓜(よひら)かな
2013.8.19)     
        *よひら=あじさいのこと


杉田 久女 
   
谺して 山ほととぎす ほしいまま
   花衣ぬぐや まつはる 紐いろいろ
   足袋つぐやノラともならず教師妻


鈴木真砂女
   己よりさびしきものに秋の草
   雁来紅一人となればたちつくし  雁来紅=葉鶏頭のこと
   昼寝より覚めてこの世と知りにけり
   足元の闇を蹴り蹴り踊る盆
   春愁を 抱くほど 花を買ひにけり
   戒名は 真砂女でよろし 紫木蓮

   
来てみれば 花野の果ては うみなりし
   涅槃西風 銀座の路地は わが浄土
   短日や 身を鎧ふごと 割烹着
   蚯蚓鳴く 路地を死ぬまで 去る気なし

鈴木 正芳  
   新樹光そろそろ終はる反抗期(2023.7.3)
   明日には結果出てゐる野分かな(2020.11.8)
   競泳の水着の作る僅差かな(2020.7.12)
   速すぎるエンドロールや鳥雲に(2019.5.27)
   添水鳴る打ち破らるる為の黙(2018.10.15)
   セーターも辛き時には赤選び(2018.1.8)
   露のなか小さき写実のありにけり(2017.11.12)
   吉報の来ると信じて新茶酌む(2017.7.3)
   三月や夢と希望を梱包す(2017.4.24)
   進言する勇気海鼠を切る勇気(2016.2.14)
   若者の不戦の誓い涼新た(2015.9.28)
   過疎村に縁談ひとつ春隣(2015.3.31)
   我慢など程々でよし雪庇落つ(2015.2.16)
   加速せし齢に釣瓶落しかな(、2014,12,1)
   花は葉に記憶はすべて希釈され
 2014.6.30

鈴木 鷹夫
 
   
されし鮟鱇 何か 着せてやれ(俳句2007・10月・谷口麻耶 )
   屠蘇の酔ひ 神も仏も 拝まずに(朝俳2003・3月)


鈴木六林男
   癌病棟へ誘導標識赤青黄
   水あれば飲み敵あれば撃ち戦死せり
   月の出の木に戻りたき柱達
   満開の ふれてつめたき 桜の木
   立ちつくす 春の夕日に 涙して
   眠れぬ夜 万の蛙の 暗黒と

   牡丹雪 地に近づきて 迅く落つ
   深山に 蕨採りつつ 亡びるか
   遺品あり 岩波文庫 「阿部一族」
(戦争現場)


須田  久男
   
朝顔を数へ一日始まれり(2022.8)
   捕らはれてなほ無表情なる蝗(2018.12.3)
   一里ごと雪ふえ故郷近づき来(2018.1.15)
   家系切れ易し蕺草尽き難し(2017.8.21)
   菊談義立ち聞きしては菊を観る(2015.1.26)


瀬群 十青
   地吹雪の晴れ間に星のしゃべりだす(、2015.3.9)
   冬の夜の枕の中に脈を聞く(、2014.12.29)
   ががんぼの忘れし脚の栞かな 句2014・6.16)
   
枯枝に凍りつきたる明けの星
(2013.2.18)
    地底からみみず宇宙と交信す(2013.8.19)


高橋 金男
   山の気を海に押し出す雪解川(2018.3.26)
   筍のどすんと構へゐたりけり(2018.5.21)
   コスモスや呼ばれもせずに振り返る (2015.11.2)
   でで虫に一万尺の石切り場 (2014・9.15)
   糸切れし傀儡にも似て児の昼寝(、2014.8.25)
   小春日やさつと南京たますだれ
(2016.1.25)
   びしょ濡れのいま法悦のひきがえる(2014.7.28)

高橋 茂吉  
   憮然たる蟋蟀の貌草抜けば(2020.11.2)
   灯の消えて見る影もなし走馬灯(2020.8.16)
   白魚やそれでも尾鰭つけてをり(2020.3.30)
   入浴剤入れて寒中いで湯旅(2020.3.9)
   程好き距離木犀の香も人間も(2019.12.2)
   泥付けてみんな生き生き田植えの児(2019.6.17)
   遠き日の遠き人々冬銀河(2019.2.25)
   先走る魂を追ふスケーター(2019.2.18)
   足抜きを助くる仲間蓮根掘り(2019.2.4)
   田の隅のスクラムむなし余り苗(2017.7.27)
   野の乱れ繕ふやうに野菊咲く
(2016.12.26)
   夕闇や蜩の樹の後ろより
(2018.9.17)
   つかの間の寒夕焼けになごむ日々
(2018.2.4)
   銀漢の湊へ一路佐渡航路
(2017.10.16)
   折紙のやうに翅とぢ揚羽の死
(2017.10.2)
   燕来て賑はひもどるアーケード
(2017.6.11)
   もの言はぬものらの祈り水芭蕉
(2017.6.19)
   淹れたての珈琲の香や涼新た(2016.10.31)
   余り苗植田における運不運(2016.7.4)
   天上の青に涯なし深雪晴
    露草に天の川からこぼれ水(2015.11.2)
   草木と示し合わせて山眠る(、2015.2.1)

   暁や蜩の声全山に(2014.9.8)
   鎮魂に大小はなし揚花火(2014・9.15)
    どの口も破れんばかり燕の巣(2014・7.6 


高野 素十

   片栗の一つの花の花盛り
   雁がねの声のしばらく空に満ち
 


高木 晴子
 
    雪国に 浜昼顔の 今さかり(s45.6 新潟 「越のうた散歩」より)   
  
 縦横に 空が映りし 青田かな
(s45.6 新潟 「越のうた散歩」より
 
  春の山 近づく程に 春の山
  
 夏近し どこかにいつも 蝶が舞う  

高野ムツオ 
     初蝶やこの世は常に生まれたて
   泥かぶるたびに角組み光る蘆
   春天より我らが産みし放射能
   死の恐怖死者しか知らず花万朶
   青薄全員かつて兵士たり
   沖縄の陽ざしに素手で殴られる
   地震の闇百足となりて歩むべし
(萬の翅)
   車にも仰臥という死春の月(萬の翅)
   瓦礫より出て青空の蠅となる
   瓦礫みな人間のもの犬ふぐり   
(萬の翅)
   みちのくの今年の桜すべて供花 
(萬の翅)
   げんげ田は 今も津波の 泥の下  
角俳2011・5月「春の虹」)
   四肢へ 地震ただ轟々と 轟々と  
(角俳2011・5月「春の虹」)
    鬼哭とは 人が泣くこと 夜の梅   (
角俳2011・5月「春の虹」)
   天地は 一つたらんと 大地震    (
角俳2011・5月「春の虹」)
   膨れ這い捲れ攫
(さら)えり大地震  (角俳2011・5月「春の虹」)

鷹羽狩行

   たちまちに日の海となり初景色
   地球またかく青からむ竜の玉
   初空を一機のごとく鳩よぎる
   初声や電線すずめ庭すずめ
   年迎ふ山河それぞれ位置に就き
   胡桃割る胡桃の中に使わぬ部屋
   紅梅や枝枝は空奪ひあひ
   流星の使ひきれざる空の丈
   人の世に花を絶やさず返り花
   道行の水母か傘を傾けて
   沖の帆に香りとどけよ花みかん (俳句2017・7月 「長良川」)
   鋭声には鋭声でこたへ行行子  (俳句2017・7月 「長良川」)
   かざしては星空に見せ螢籠   (俳句2017・7月 「長良川」)
   星空を天蓋として螢籠      (俳句2017・7月 「長良川」)
   鵜舟より火を分かたれて薪能 (俳句2017・7月 「長良川」)
   鵜舟速しや正面を過ぐるとき  (俳句2017・7月 「長良川」)
   篝火の来て鵜の川の深さ増す (俳句2017・7月 「長良川」)
   疲れ鵜の船べり掴かむ疲れやう(俳句2017・7月 「長良川」) 
   篝火の火の粉に星の降りられず (俳句2017・7月 「長良川」)
   火の国に火の国いくつ雲の峰
   初凪や轟沈といふ昔あり
   戀の字の糸のもつるる試筆かな
   二階に稿書けば二階に春蚊くる
   今年またうやむやに梅雨はじまりぬ
   考へるかたちに二つ夜の胡桃
   亀鳴くや人老いて去り冨みて去り
   総身の汗を脱ぐなりシャツを脱ぎ
   大根引き大根と歩きはじめたり
   大いなる柄杓星出でてお水取り
   みちのくの星入り氷柱我に呉れよ
   盛んなるとき過やすく雲の峯  (俳句2017・7月 「長良川」)
   霧という曇り硝子やお花畑   (俳句2017・7月 「長良川」)
   雲流れゆく明るさのお花畠   (俳句2017・7月 「長良川」)
   日ざしなくなること早しお花畑  (俳句2017・7月 「長良川」)
   手鏡のほどの漏れ日や木下闇 (俳句2017・7月 「長良川」)
   夏帯を締めて山河の改まる  (俳句2017・7月 「長良川」)
   夏菊をきつぱりと活け奥座敷 (俳句2017・7月 「長良川」)
   走馬灯止まるつもりが回りだす(俳句2017・7月 「長良川」)
   朝礼なき校庭あゆむ夏休   (俳句2017・7月 「長良川」)
   向日葵の徹頭徹尾向き変えず (俳句2017・7月 「長良川」)
   瞠目の夜の向日葵の前とほる(俳句2017・7月 「長良川」)
   踏破せし山から山を見て晩夏 (俳句2017・7月 「長良川」)
   明かり鳩舎より羽毛が昇りゆく良夜
   掌中に糸走らせて凧揚がる(俳句2014・1月 「初声」)
   国宝の寺 おほらかに 隙間風
   水に登る魚 木に登る童かな
    湖(うみ)といふ 大きな耳に 閑古鳥
   金の鞍 置くがごとくに 花の山(俳句2010・5月)尾道六句
   おもて裏なき しだれかな 糸ざくら (俳句2010・5月)
   寒戻る 寒にとどめを さすごとく
   引鶴の 中の一羽と なられしや (鈴木真砂女氏への弔句)朝俳2003・12月
    摩天楼より 新緑が パセリほど 俳句2007・10月
    霧はれて 白山一花草(イチゲ)蕊(シベ)多き(俳句2008・10月)
   参道の 木より石より 秋の声
    こみ上ぐる ものあるらし 泉にも(俳句2008・10月)
   白菜を 真二つ 何も生まれず
   天花粉 しんじつ吾子は 無一物 (俳句2011・5月 大木撰)
   新緑が 波をしづめて 最上川(俳句2011・月 大和)
   湧くものに 古きものなし 山泉 
   曙や あけぼのいろの 蓮の花 (俳句2011・月 大和)
   黒と言ひ いや碧と言ひ 深山蝶 (俳句2011・月 大和)
   空の端 めくりて初日 出でにけり    (朝俳2012・1月
   数の子を 埋蔵金のごとく 出す     (朝俳2012・1月
   良寛の こころとなりて 筆始       (朝俳2012・1月
   菖蒲湯の 澄みにわが身の 隠れなし (俳句2012・5月
   雲の戸を 開けては閉めて 梅雨の月 (俳句2012・5月)
   金粉の 舞うがごとくに 蛍澤      (俳句2012・5月)
   明滅に 草のいきづく 蛍籠       (俳句2012・5月
   万緑といふ つばさのべ 富士の山
   鵜篝の火の粉 撒き餌の ごとくなり  (俳句2012・5月)
   翅立てて 止まると見せて 深山蝶   (俳句2012・5月)
   流るるを 忘るるまでに 水澄めり
   太陽へ 雪間それぞれ 声をあぐ

高橋 睦郎
   赤き靑(あお)き舌 ひらめかせ 氷水 (遊行)

   腥(なまぐさ)き 息して春を 惜しむなり春

高浜 虚子
   蛍火の鞠の如しやはね上がり
   土塊(つちくれ)を一つ動かし物芽出づ
   啓蟄の土をうるほす雨ならむ
   枯枝に初春の雨の玉円か
   石ころも露けきものの一つかな
   音立てて春の潮の流れけり
   その中にちいさき神や壺すみれ
   秋風や眼中のもの皆俳句
   大海のうしほはあれど旱かな
   大寺を包みてわめく木の芽かな
   大寒の埃の如く人死ぬる
   天地の間にほろと時雨かな
   金亀子擲つ闇の深さかな
   向日葵が好きで狂ひて死にし画家
   咲き満ちてこぼるる花もなかりけり
   あたりまであかるき漆紅葉かな
   よろよろと棹がのぼりて柿挟む
   命かけて芋虫憎む女かな
   蓑虫の父よと鳴きて母もなし
   水澄みて虫もをらざる刈田かな<
   手毬唄かなしきことをうつくしく
   春惜しむ 命惜しむに 異ならず
   湯に入りて 春日余り ありにけり
   春風や 闘志いだきて丘に立つ
   雪渓の下にたぎれる黒部川
   葡萄の種吐き出して事を決しけり
   此の松の下に佇めば露の我
   田1枚 1枚ずつに 残る雪
   たとふれば独楽のはぢける如くなり
   初蝶を夢の如くに見失ふ
   大いなる ものが過ぎ行く 野分けかな
   去年今年 貫く棒の 如きもの
   その辺を 一廻りして ただ寒し
   遠山に 日の当たりたる 枯野かな
    流れゆく 大根の葉の 速さかな
   桐一葉 日当りながら 落ちにけり
   白牡丹と いふといへども 紅ほのか
   山里の盆の月夜の明るさよ
   白酒の紐のごとくにつがれけり
   秋風や心の中の幾山河
   蜘蛛に生れ網をかけねばならぬかな
   小説に書く女より椿艶
   線と丸電信棒と田植傘
   風生と死の話して涼しさよ
   ほこ〱と落葉が土になりしかな
   幹にちよと花簪のやう花
   春の山屍をうめて空しかり

竹内  英夫
   南天は頭を垂れて神迎(2024.1.15)
   十年の先にもドラマ七五三(2024.1.8)
   シベリアの使者を二か月待つ落穂(2023.11.12)
   脚立でも届かぬ実梅不問とす(2023.7.9)
   腰痛のなかりせばこのうららの日(2023.6.5 秋 俳壇賞)
   新調の靴のとんがり駅四月(2023.5.22)
   押入は冬の初めの下剋上(2023.1.16)
   田水張る一気に万の雨蛙(2022.7.10)
   日脚伸ぶ五体投地を猫も真似(2022.3.13)
   引き留めて通す座敷の寒さかな(2022.2.28)
   自販機のおつりもどかし日の盛(2021.9.12)
   筍のバベルの塔をまふたつに(2021.6.29)
   平野にも傾きありて落とし水(2020.11.8)
   いやいやを生業とする扇風機
(2019.8.19)
   湯あたりを何度かさせてはいおでん
(2018.3.5)
   息継ぎは要らぬとばかり揚雲雀
(2017.6.5)
   ものぐさの苗札あはれ卒塔婆のやう
(2017.6.26)
   月色に花咲きオクラ切れば星
(2015.11.23)
   野の露や陽に諭されて還りゆく
(、2014.12.29)

田中  祐子
    つままれて何かしゃべつている蜻蛉(2023.11.12)
   気力あり体力はなし草の花(2022.10.3)
    片づけの止まらなくなり春の宵(2022.7.23)  
      
 *なかなかの季語のあっせん
   緑陰に入りて世間を眺めをる(2022.8.1)
   菜虫取る虫も殺さぬ顔のまま(2020.11.16)
   ハイヒール履かぬ人生夏大根(2020.8.16)
    「初雪」「だね」と心の奥に会話(2020.1.20)
   人は踏み蟻は踏まれてゐる地球(2019.7.15)

   万物が春のただ中われもまた(2017.3.20)
   秋風の中野良猫といふさだめ(2018.10.1)
   来世には友となるやも油蟬(2018.6.4)
   星や兜太のたましひ永遠に(2018.3.19)
   炎天へ出でて勇者となりにけり(2016.8.1)
   すすき採る人と目があひ笑ひあふ(2015.11.2)
   秋の蝉壁にぶつかる強き音(2015.9.21)
   どくだみのにほひの強し清々し(2015.7.12)

種田山頭火
   伊豆はあたたかく 野宿によろし 波音も
   一つあると 蕗のたう ふたつみつ
   分け入つても 分け入つても 青い山


津川 叡子(絵理子)
    見えさうな金木犀の香なりけり
    つばくらや小さき髷の力士たち
    切り口のざくざく増えて韮にほふ
    春寒き死も新聞に畳まるる

土田    満
    
小鷺二羽連れて田を打つ耕運機(2021.5.17)
    見落としの胡瓜も化ける雨三日(2020.8.24)
    葡萄ほど密なる仲間うらやまし(2019.4.15)
    過去長し未来短し日向ぼこ(2017.3.20)
    間伐の音の合間に初音かな(、2014.5.19


津田 清子
   
向日葵の一茎一花咲きとほす
   紫陽花剪るなほ美しきものあらば剪る
   アダム行きエバ行き蛇の行きし道
   砂漠の木百里四方に友はなし
   自らを墓標となせり砂漠の木
   砂漠に立つ正真正銘津田清子
   風葬の夜を司るアンターレス
   北きつね老いさらばへて昼遊ぶ
   北溟や故郷を捨てし鮭もゐむ
   真葛原あすかを謎のまま覆ふ
   木簡に添寝の蛙掘り出され
   白辛夷老醜いづこより来る
   窓にさくら壁に人体解剖図
   いにしへに遊べよと雪奈良に降る
   唾すれば唾を甘しと吸ふ砂漠
   北きつね老いさらばへて昼遊ぶ
   木簡に添寝の蛙掘り出され
   ゆりかもめなり群れの中の個なり
   蜥蜴は待つ 恐竜になる 夢を見て      (俳句2010・1月 )

   老いらくの恋や 七草粥 みどり        (俳句2011・1月 )
   心弾む 雪の野を越え 谷を越え       (朝俳2012・1月

    いとしい雪よわが手のひらで水となる  (朝俳2012・1月
   雪は誰のもの 溶けてゆく 消えてゆく  (朝俳2012・1月)
    月に哭く姨捨山の姨の声     (俳句2014・1月 「姨の声」)
   十三夜月と私と今宵かぎり     (俳句2014・1月 「姨の声」)
   
こほろぎの親しき声す午前二時  (俳句2014・1月 「ふくさ藁」)

寺山 修司
   青空が ぐんぐんと引く 凧の糸

富安 風生
    我が縋る一縷の芸や螻蛄鳴く
   ふるさとのつきて離れぬ草じらみ
   淋しきがゆゑにまた色草といふ
   ぎちぎちといはねばとべぬあはれなり
   まさをなる空よりしだれざくらかな
   みちのくの伊達の郡
(こおり)の春田かな
   杉の月冷さまじければ寝の難き
   
春嶺を 重ねて四万と いふ名あり
   蹴あげたる 鞠のごとくに 春の月
   梨の花 すでに葉勝ちや 遠みどり

時田  桂
   
夕刈田道まつすぐは寂しけれ(2018.12.9)
   雪の日の音なき音を聴いてゐる(2018.3.5)
   枯木みな枯木としての命秘め(2018.1.22)
   緑陰と云ふ静かなるひびきかな(H28.7.25)
   
鳥渡る遠くなりゆく過去ににて
(、2014.11.24)
   しづかなる山滴るといふ言葉

鳥居美智子

   春を嗅ぐ 鼻とき色に 萱ねずみ
   紙の音 いいいえ私の 木の葉髪
   飛込の途中たましひ遅れけり 
   うき氷底意に邪なるところ (俳句2014・3月 )

友岡  子郷
    一月の水平線の凛とあり
    くだもの屋九月の空となりにけり
    茶花の白の気風のいまいくつ(角俳2014・1月 「船印」
    牢抜けのさまに寄居虫急ぎをり(角川俳2010・8月 「海辺にて」)

    海よ贖へと風鈴鳴りゐたり(2017.角俳.8月)
    友の訃ははるけき昨日きんぽうげ
    鳶の輪のひろやかな日の白子干 
    網子らの墓は小さしと蝶舞へり
    原発禍の人らの行方鳥雲に


鳥島  冬山
 
    菖蒲風呂五欲の匂ひ広がりぬ(2023.6.19)
    郭公や鍬柄の艶は妻のもの(2023.6.11)
    郭公の山彦村を清めたる(2021.6.29)
    保育園の瞳がきれいさくら咲く(2021.4.5)
    ひと日ずつ生きて老いゆく秋の声(2017.10.2)
    大花火妻の遺愛の椅子に孫(2015.9.7)

内藤 鳴雪
    六日はや睦月は古りぬ雨と風
    文殊語り 舎利弗眠る 日永かな
    爺婆の 蠢き出づる 彼岸かな

永瀬 十悟
   風評の苺 せつなき 甘さかな
   騒がねば 振り向かぬ国 ひきがへる
   さへづりや あの日と呼べるのは いつ
   蜂笑ふ 手に負へぬもの 飼ふべからず
   しゃぼん玉 見えぬ恐怖を 子に残すな
   避難大事 恋も大事や チューリップ
    竜 天に方舟を曳き 昇りゆく
    燕来て 人消える街 被曝中
   陽炎の中より 野馬追ひの 百騎
   帰る雁 帰らぬ雁は 何と呼ぶ
   凍返る 救援のヘリ 加速せよ
    雁風呂と名付けて 六日振りの風呂
   鳥雲に フクシマテマタ アイマセウ
   揚雲雀 疲れたときは 風に乗れ(角俳2011年「ふくしま」)

日野 草城
   夏の雨きらりきらりと降りはじむ
   鈴虫のひげをふりつつ買はれける
   秋の雨 しづかに 午前をおはりけり
   うぐいすの こゑの沁みたる 蕨かな
   春の雲 ながめてをれば うごきけり

中原 道夫
   
草萌に一両日といふ速さ(季のうた)
   汗臭きより水くさき人が嫌(季のうた)
   ほほづきを舌下にしまふ愚と鳴りぬ
   マスクせぬ春あけぼのの早出なる
   咳すれば彼方此方の目を集む
   反日の箍ゆるび出す芽吹雨
   颱風の目つついてをりぬ予報官
   いにしへのままをくるしむけふのつき
   水難の相の出てゐる海月かな
   饅頭の天邊に印あたたかし
   飛び込みの途中たましひ遅れけり
   白魚のさかなたること略しけり
   目隠しの中も眼つむる西瓜割
   にんげんに罵聲あびせむ初鴉(俳句2017,1月)
   徂俊春の五段蒸籠の吹くことよ(俳句2011,11月)
   うき氷底意に邪なるところ(俳句2014,3月)

中川 ミキヨ
   束の間の野良着茶会やほととぎす(2019.4.22)
   父も食べ祖父も食べたる柿をもぐ
(2016.12.26)
   諦めを悟りと思ふ春の夜
(2017.4.24)
   新米を炊くしみじみと老ゆるな
   備の閑かさよそに蝉時雨
(2014.10.20)
   万緑や茫々と村さびれたり(、2014.8.25)


中村草田男
   吾妻かの三日月ほどの吾子胎すか
   なにもかも失せて薄の中の路
   蚯蚓鳴くあたりへこゞみあるきする
   墜ち蟷螂だまつて抱腹絶倒せり
   白鳥といふ一巨花を水に置く
   花筏 蕾みぬ 隈なき葉色の面に
   妻抱かな 春晝(ちゅう)の砂利 踏みて帰る (火の鳥)
   浜茄子や 今も沖には 未来あり(「長子」)
   万緑の中や 吾子の歯 生え初むる
   冬の水 一枝の影も 欺かず
   降る雪や 明治は 遠くなりにけり
   勇気こそ 地の塩なれや 梅真白(出陣近き教え子に・・・)

中村 汀女

   身かはせば色変わる鯉や秋の水
   ゆで玉子 むけばかがやく 花曇り
   外にも出よ 触るるばかりに 春の月
   美しき 春日こぼるる 手をかざし 
 
  とどまれば あたりにふゆる 蜻蛉かな
   秋雨の瓦斯が飛びつく燐寸かな
   咳の子の なぞなぞあそび きりもなや


中村 苑子
   
父母遥か我もはるかや春の海
   梁(うつばり)に紐垂れてをりさくらの夜
   晩年は桜ふぶきと言ふべかり
   麗かや 野に 死に真似の遊びして
   うしろ手に 閉めし障子の 内と外
   辛夷咲き胸元緩し人妻は

中野 博夫 (埼玉県上尾市 父は弘一 「海峡」主宰)
   止まるたび円心にあり水馬(2016.10.10)
   蛇穴を出てたれにも会わぬ村(2016.5.2)
   団塊といふ病葉の吹き溜まり(2015.9.21)
   父の本義父の本あり獺祭(、2015.4.20)
   咲かぬより咲く愚を選み帰り花(、2015.2.1)
   海月にも浮世は憂き世かも知れず(2013.8.19)


西山 睦   
   きぶし咲き 山に水音 還(かへ)り来る
   行行子(ぎょうぎょうし)正午の声ののぼりつめ 朝俳2003・9月
   鮑蟹 津波を語りつと消える(俳句2012・5月


野口  沙魚
   
おとといの夢を蝙蝠追ひ回す(2020.8.8俳句プラス)
    車間距離、あっ桜、車間距離、桜(2020.5.25)
    蜜柑剥く火星の謎を解くごとく
(2017.1.23)
    
柚子風呂の傷物わが事と思ふ(2016.1.11)                      
   金魚泳ぐ引きちぎられし愛のごと(2015.8.3)
    等圧線よりあふほどの寒さかな(2015.2.16)


橋本美代子

   悲しみの蛍螺旋を描いて落つ
   指ゆるめ 紫雲英の束を 寛(くつろ)がす
   冬木立 密葬 案の一つなり(角俳2012年「刻々
   未だ こんな闇があるなり 初詣(角俳2012年「刻々


橋本多佳子
   
いなびかり北よりすれば北を見る
   月光にいのち死にゆくひとと寝る

   星空へ店より林檎あふれをり
   かじかみて脚抱き寝るか毛もの等も


林  翔
   一花だに 散らざる今の 時止まれ
   先端は 空にをどりて 通草咲く
    蝌蚪(かと)掬ひ 手とはつくづく大きかり
    霞む中 月日もつとも 霞みけり


原 石鼎
    淋しさにまた銅鑼うつや鹿火屋守  俳句2014・3月 
    ひきかけて大鋸そのままや午寝衆    俳句2014・3月 
    石二つ相寄るごとし秋のくれ
    春鹿の眉あるごとく人を見し

広瀬  修平
    死がひとつそこ折り返す蟻の列(2017.8.28)
    これからもずつと老人赤とんぼ
(2017.10.16)
    
泡立草安定多数自若たり(2016.12.19)
    呼び鈴を押すに西瓜持ち替ふる(2016、9.19)
    仏壇に桃がありますどうします(2015.9.28)
    三年の鬱千年の滝桜(、2014.4.28)


深見けん二
    
向こうより同じ桜を眺めけり
    晩年の一と日一と刻鰯雲(俳句2017,1月)
    
日の沈む前のくらやみ真葛原
    寒鯉を数へて数の定まらず
    仰ぎゐる頬の輝くさくらかな
    あまねき日枯れ木の幹もその枝も
    ゆるみつつ金をふふめる福寿草 
朝俳2012・1月)
    ゆるむことなき秋晴れの一日かな朝俳2012・11月

渕野陽鳥 草花の句

    静けさの蛍袋に詰まりけり
    どくだみの無垢なる白き十字かな 
    浦島草夢追ふ竿のたわみかな  
   皆そろふまでは待てない韮の花
    アマリリス背中合せに女どち
    鷺草の大地へ降りる構へかな
    鳳仙花どうぞ過去にはふれないで  
   藤房の風に素直でありにけり
    柳垂れ咲く枝の自由律
    糸繰草遊んでくれとせがまるゝ
    古里は鍵など掛けぬ桐の花
 

文挟夫佐恵
   老いの身にまぶしき光夏来る
   わが挽歌たれ凌霄の花の揺れ
   凌霄花のほたほたほたえ死
   炎天の一片の紙人間(ひと)の上に
   艦といふ大きな棺沖縄忌
   九十の恋かや白き曼珠沙華
   満月の桜入水をそそのかす
   冬桜さびしき笑みをもらしけり
   木犀をみごもるまでに深く吸ふ
   蓮枯れてとぼけた姿晒しけり

福田甲子雄  
   をなもみを勲章として死ぬるかな
   草々に露をうながし月昇る
   星からのこゑとも閻魔蟋蟀は
   己が木の下に捨てらる花梨の実
   生誕も死も花冷えの寝間ひとつ
   桃は釈迦李はイエス花盛り
   稲刈って鳥入れかはる甲斐の空

北条  祐史
   
   牛尿のごと夕立の音激し(2021.9.6)
   三密に非ず濃密蜜林檎(2021.2.1)
   元寇を阻止しし台風にて被災(2019.11.29)
   十薬の取り囲む墓わが未来(2019.7.15)
   オリオン座昔の光り見る師走(2015.2.16)


細見 綾子

   再びは生まれ来ぬ世か冬銀河
   まんさくは煙りのごとし近よりても
   むらぎもの牡丹ほつれを見せそむる
   桜の実赤し黒しとふふみたる
   春の雪地につくまでを遊びつつ
   牡丹に雨の荒れざまのこりたり
   まぶた重き仏を見たり深き春
   
菜の花がしあわせさうに黄色して
   爪切れど秋思どこへも行きはせぬ

   春の雪 地につくまでを 遊びつつ
   戸隠のほととぎす啼き惜しまざる
   そら豆は まことに青き 味したり


星野  京子
   捻花のねぢれねぢれて芯ぶれず(2021.8.2)
   端植えは今も人の手青田風(2021.7.11)
   庭覆ふ蕗の増殖したり顔(2021.7.11)
   冬空を掃き清めたるポプラかな(2018.2.26)
   畦草の刈り跡涼し二三日(2017.8.21)
   吸い取つて日を吸い取つて切干に(2016.5.2)
   三寒に悲観四温に弛緩せる(2016.4.4)


星野 立子
   囀りを こぼさじと抱く 大樹かな

   下萌えて 土中に楽の おこりたる

前澤 宏光
  
 吹かれをり葭切葭をはなさずに
   行く夏やならんで休むつばめたち
   流されてゐるは光か水鳥か
   おほばこの花にも風の吹いてをり
   みちのくの行く先々の芒かな
   顔近付けて真清水暗くせり
   薄氷や老いて物音たてず住む

前田 吐実男
   三日もお前どこに行ってたうかれ猫 
   義理チョコだってくる訳ないよ爺だもの 
   女の嘘に知らん顔する初閻魔 
   裏山の狸の溜め糞山笑ふ 
   ちゃんちゃんこ着て一生を俳句馬鹿 
   行くあてもなし蛇穴を出る

前田 普羅
   雪解川 名山けづる 響かな (普羅句集) 
   慈悲心鳥(じゅういち) おのが木霊に 隠れけり
   荒梅雨や 山家の煙 這ひまはる俳句2011・11月 

正岡 子規
   これはこれはあちらこちらの初桜
   水口に集まって来る田螺哉
   黒きまでに紫深き葡萄かな
   一つ落ち 二つ落ちたる 椿かな

   雪残る 頂一つ 国境 
   柿食へば 鐘がなるなり 法隆寺

   暑い日は 思い出だせ ふしの山    
   
 (俳句2009・12月 正岡子規を支えた「友」)


正木 ゆう子  
   春分の道いつぱいに日が昇り
   真東へ歩き春日へ入るごとし
   けふ土手は紋白蝶の祭らし
   力こぶ出来てしまひし自粛の春
   牛蛙の声に応へて合歓ひらく
   茫と呼べば儚と答ふる牛蛙
   水の地球 すこしはなれて 春の月
 
  
 月だけが知る 山猫の 子育ては 
   揚雲雀 空のまん中 ここよここよ
   寄居虫の 小粒よ 耳に飼へさうに 
   萎るるに 身を尽くしたる 月見草 (角俳2011・9月 「羽化」)

    無味無臭 透明にして 夏の風     (角俳2011・9月 「羽化」)
    満月は 亀の卵を あやしゐる   (角俳2011・9月 「羽化」)

松尾 芭蕉
   
宿りせん藜の杖になる日まで
   月はやし梢は雨を持ちながら
   此の道や行く人なしに秋の暮
   ほととぎすなくなくとぶぞいそがはし
   家はみな杖に白髪の墓参
   老いの名の有りともしらで四十雀
   行く秋や手をひろげたる栗のいが
   蕎麦はまだ花でもてなす山路かな
   先(まづ)たのむ椎の木も有夏木立
   合歓の木の葉ごしもいとへ星のかげ
   から鮭も空也の痩も寒の内
   初しぐれ猿も小蓑がほしげ也
   やがて死ぬ気しきは見えず蝉の声
   文月や六日も常の夜には似ず
   むざんやな兜の下のきりぎりす
   石山の石より白い秋の風
   落ちざまに 水こぼしけり 花椿
   よく見れば 薺
(なずな)花さく 垣根かな
   象潟や 雨に西施が ねぶの花
   野ざらしに 心に風の しむ身かな
   雪間より 薄紫の 芽独活哉

   春雨や 蓬をのばす 艸の道
   梅が香に のつと日の出る 山路かな
   草の葉を 落つるより 飛ぶ蛍かな
   柿摘むや 一つ一つの 重み受け
   凩に 匂ひやつけし 返り花
   古池や 蛙飛こむ 水のおと
   夏草や 兵共が ゆめの跡
   しづかさや 岩にしみ入 蝉の声
   荒海や 佐渡によこたふ 天河
   旅に病で 夢は枯野を かけ廻る
   さまざまな 事思ひ出す 桜かな
   山路来て 何やら床し 菫草
   此秋は 何で年よる 雲に鳥
   秋深き隣りは何をする人ぞ


松本たかし
   我庭の良夜の薄涌く如し
   くきくきと折れ曲がりけり蛍草
   山々を覆ひし葛や星月夜
   西行忌 我に出家の 意
(こころ)なし
   点滴と 白い月とが ぶらさがっている 夜
   幹高く 大樹 陰を支えたり「理は句を小さく纏める」
     
(俳句2007・10月・中西夕紀 )
   目あてて 海が透くなり 桜貝
   鼓あらば ポポポと打たむ 花曇
   又一つ 病身に添ふ 春寒し


黛  まどか
   叱らるるそばから撃てる水鉄砲 
   風の盆一つの月に踊りけり 
   春の灯の離ればなれに睦みゐる 
   まえがきもあとがきもなし曼珠沙華
   青空は神のてのひら揚げひばり

松永 浮堂

   山の天 紺の深みに 秋は来ぬ    (俳句2009・12月 )
   牡丹雪 地に着くまでを すべてとす (俳句2009・12月 )
   コスモスの 空大きく 晴れてゆく   (俳句2009・12月 )
   曼珠沙華 暗きは己 のみならず   (俳句2009・12月 )

三橋 鷹女
   鞦韆は漕ぐべし 愛は奪うべし   (俳句2008・10月)

   髪多ければ 春愁の 深きかな
 
  
チューリップ 或る日或る刻 老い易く
   
白露や 死んでゆく日も 帯締めて


三橋 俊雄
   立春や 寝
(い)ね覆(おお)はるる 酒の酔

   長き長き 戦中戦後 大桜

宮下  真澄
   
流氷のごとき北方領土かな(20193.25)
 
  青臭き匂ひ吐き出す草刈り機(2018.8.27)
   荒れし田の雀がくれとなる早さ(2018.5.6)
   一番の願ひは書かず星まつり
   田植機が国仲平野ひろげゆく
   床の間の鉢植へに秋しのびきし(、2014.12.14)

宮坂 静生

   秒針の時計は 嵌めず つばくらめ
   花の中 孔雀は 家のごと進む
   命綱持たぬ 雲雀も 人類も

室生幸太郎
   夕空に 紅の息吐区く 曼珠沙華 
   昼よりも 卒塔婆よく見え 星月夜
  (朝俳2003・11月)


村越 化石 ハンセン病と診断されて入園
   端居はさびし濁世と離るるは
   雪の国猫鳴いてゆく方に春
   ふと覚めし雪夜 一生 見えにけり
 (俳句2008・3月 )
   鳶は 和を大きく 里は小春なる   (朝俳2003・3月
   故郷に つながるこころ 春めけり
   世の端の その端に住み 柿吊す    (俳句研究2006・3月)


村上 鬼城
   風邪ひけば風邪も逃さじとして老ゆる
   菱の中に日向ありけり目高浮く
   川底に加斗の大国ありにけり
   小春日や 噛み居る 赤蜻蛉
   冬蜂の 死にどころなく 歩きけり

   生きかはり 死にかはりして 打つ田かな
   露涼し 形あるもの 皆生ける
   けふの月 馬も夜道を 好みけり 


森  澄雄 
 
   常臥しの顔の上なる淑気かな
   水爽やかに仏性の鯉の髭
   紅葉の中杉は言ひたき青をもつ
   綿雪や しづかに 時間舞ひはじむ

    除夜の妻 白鳥のごと 湯浴みをり(雪櫟)(朝俳2003・7月)
    常臥しの われの初旅 夢の中(俳句2010・1月 )
    田を植ゑて 空も近江の 水ぐもり
   命惜しまむ 冷麦(ひやむぎ)の うまかりし(所生)


水原秋桜子
   ひぐらしやあまた水落つ湯檜曾川
   山?
(さんしゅ)に けぶるや 雨も黄となんぬ
   雪渓を 悲しと見たり 夜もひかる

   筒鳥や 一人憩へば 羊歯の雨 
   楢山の 窪に
蝌蚪(かと)生ふ 芽かり季(どき)
     * 蛙の目借り時=
         ①異性(妻)を求めて鳴きたてる時 
         ②交尾産卵後ふたたび地中で静かにしている時

  
 春愁の かぎりを 躑躅燃えにけり

   冬菊の まとふは おのがひかりのみ
  
 啄木鳥や 落葉をいそぐ 牧の木々

山田ひろし

   水底に置きたるごとく寒の鯉(2018.2.4)
   叩かれて色よき返事大西瓜
   ワイパーの追いつかぬほど春の雪
   明快な一茎一茎チューリップ
(2017.5.29)
   枝蛙当てあるごとく登りゆく(2016.8.8)
  
 白線の新たに9月通学路(2015.10.5)
   反哺の孝未だ学ばず烏の子
(2013.8.19)
   一層の無口となりて暑に対す(。2014.9.1)
   更衣なきは淋しや錦鯉
(、2014.8.25)


安田 青菜

   名月や 座敷童の 外遊び
 (俳句2009・12月 )   
   柿実る 昔話の 昔より  
(俳句2009・12月 )

山口 草堂
   
癌病めばものみな遠し桐の花
   ひぐらしの後へつぐ声や彼方より
   郭公の己が谺を呼びにけり

山口 誓子 
   海に出て 木枯 帰るところなし
   炎天の 遠き帆や わがこころの帆
   夏草に 機罐車の車輪 来て止る


山本   浩
    草刈るや草それぞれの匂ひ持ち(2018.9.9)
    人は皆死の文字背負ふ猛暑かな(2015.9.21)
   怠者一匹もゐず蟻の道(2013.9.2)
   新米の光集めて炊きあがる(2017.11.27)
   捨てし田に男盛りの青芒(2017.8.21)
   村人の心の踊る深雪(、2015.3.2)


百合山羽公
 
  白鳥の何も恃まず白き影
   焼藷の車に寒さつきまとふ
   老友と居れば幼名夏みかん

与謝 蕪村
   点滴(あまだれ)にうたれて籠る蝸牛    *僧の滝修行
   青梅に眉あつめたる美人かな        *西施の愁い
   ゆく春やおもたき琵琶の抱きごころ 
   これきりに径尽きたり芹の中
   陽炎や名も知らぬ虫の白き飛ぶ
   戸を叩く狸と秋を惜しみけり
   公達に 狐化たり 宵の春

    大門(おおもん)の おもき扉や 春の暮
   一稲刈れば 小草に 秋の日のあたる
   ゆかしさよ しきみ花さく 雨の中   「悪しき実」=毒あり
   春の海 終日 のたりのたりかな
   遅き日の つもりて 遠きむかしかな

   斧入りて 香におどろくや 冬こだち (角俳2010・10月 「秋しぐれ」)
   白露や 茨の棘に ひとつづつ

   野路の秋 我後ろより 人や来る
   門を出れば 我も行く人 秋の暮れ
   初ざくら 其きさらぎの 八日かな  (角俳2011・5月 橋本英治撰)

   鳥羽殿へ 五六騎いそぐ 野分かな
   菜の花や 月は東に 日は西に
   牡丹散つて うちかさなりぬ 二三片
   月天心 貧しき村を 通りけり


米沢 吾亦紅
 
   稲雀 風の形を つくりけり
   ネクタイの 端が顔打つ 春疾風 

良寛
   散る桜残る桜も散る桜
 
若井 新一
   鳥雲に羽なきものは腕を組み(季のうた)
   山中とほる鶏鳴雪ねぶり
   堅雪の上を走れる杉丸太 (俳句2014・3月)   
   甦る山の命や?芽吹く(俳句2014・3月)


渡辺三千代
   人の世を励ますやうに桜咲く(2022.4.8)
   十ほども若さの戻る柚子湯かな(2022.1.31)
   何事も余力を残し春を待つ(2021.1.25)
   楚々と咲き楚々と秋明菊散りぬ(2019.12.2)
   追ひつけぬ月日の早さ着ぶくれて(2019.2.11)
   梟に出会ふ図書館への小径(2019.2.4)
   変わる世に変わらぬ私雛飾る(2016.2.29)
   虫の声この世にひとりかと思ふ(2013.10.14)
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若月  柳子
    霧襖定かなるもの尾灯のみ(2023.10.30)
    剪定の深手いたはる雀かな(2022.6.20)
    蜆らの阿鼻叫喚をすすりけり(2022.5.23)
    もう少しちゃんと死ねよと水鉄砲(2022.7.10)
    ぎやていぎやてい腹減った鴉の子(2020.7.12)
    魁偉とは枉げぬ八一の懐手(2019.4.15)
    菰巻いてもう裸木とは言わせない(2019.2.4)



 秋本 孝之
後の月壊さぬやうに湯に浸かる
 蓬田紀枝子
   がまずみの実を舌にのせ鳥になる

 浅川 芳直 
春ひとつ抜け落ちてゐるごとくなり (季のうた)
 浅井  民子
   両腕に青田板東太郎かな
 赤塚  五行    
   手庇に朱鷺の家族や初御空
   島寝たか橋のごとくに天の川
   天へ地へとどけとしだれざくらかな

 会田  修子

   初霰窓打つ音の痛かりし (2017.12.18)

 会津  八一

   ぬかみそのむらさきさめてけさの秋
   ふる庭の牡丹にまつのあらしかな 
 相原左義長
   見えぬもの見たくて海路ヒロシマへ
 
 相子  智恵

   にはとりのまぶた下よりとぢて冬
   阿修羅像三面互ひ見えずよ寒のうち
 青柳  照葉
   土の香が好きよ好きよと寒葵
 青柳志解樹

   ひそやかに生きることこそ寒葵
   月の夜の浮かれをりしはねこじゃらし
   浅春や木の枝噛めば香ばしき

 朝妻    力
  
蠍座の尾の刺さりゐる天の川
   春昼を夢かとばかり逝きにけり
   長けたるは風に残して嫁菜摘む

 安食  彰彦
  
秋澄んで碧きドナウのあをきかな
 東      蕾
  
わが欠片集むるごとく栗拾ふ
 足立  幸信
  
恋猫の声に応ふる声も闇
 阿部みどり女
   
賜りし長寿大事冬に入る
 阿部 真千雄
  
明かり消し鈴虫に夜を渡しけり(2018.11.6)
 阿部  元気
  
夏雲や赤子の口を乳あふれ
 阿部  誠文
   雲海に月出て人魚泳ぎをり
 天野  小石
  
銀漢や合はせ鏡のやうな路地
   雨粒のひかり始めてゐる花野
   白鳥の運びて来たる夜明けかな
 雨宮  抱星
  
沢蟹の石の都へもぐりけり
   若葉から青葉へ無言続きけり
   かき氷彩をつくして笑ひ合ふ
 荒木  康子 
  
長雨が幻に見るカタツムリ(2023 秋俳壇賞)
 荒井千佐代
  
椿落つ神は死のみを平等に
   漆黒の闇は海なり除夜詣
 新谷 ひろし
  
ふるさとはからだの中に雪が降る
 相川  澄子
   蜘蛛の糸空青ければ風青し(2015.10.5)
   かたつむり殻の奥にて悪口言ふ(2015.8.24)
   冬銀河鶴のごとくに見上げたり(、2015.3.9)

 赤尾  恵以

   まんじゅしゃげ一人笑ひは気味悪く(角川2011)
 秋本 ひろし
  
石段を数へて上る七五三
 相島 虚吼
   
ラジオいま雪の信濃の除夜の鐘
 相生垣瓜人
   死に切らぬうちより蟻に運ばるる「明治草」

 相子  智恵
   誰が命も遠し夜業の丸の内 俳句2009・12月
 芥川竜之介
   兎も片耳垂るる大暑かな
   庭土に皐月の蝿の親しさよ

 阿部 はじめ
  ストーブはごくごく油飲み凝(しこ)る
 阿部  松夫
 
 名月にひと声かけて眠りけり(2015.11.16)
 阿部すが子
 
 コスモスの恋占いの来ない来る
 穴井    太
   梅咲くや酒屋へ一里黄泉へ二里
 雨宮はじめ
   散る花も吾も輪の中に
 有馬かず子
  
竜の玉帰り来ぬ日は美しき
 有本  潤子
   菊膾箸扱ひの美しく
 東   良子
  隧道に黄泉の出口や葛の花 (俳句2009・12月
 綾部  仁喜
 
 まんさくの花盛りなる古葉かな
 天島  渚男
   じゃが薯を植ゑることばを置くごとく
 天野莫秋子
 
 急流の底まで紅葉敷きつめし
 安藤姑洗子
 
  蒼海の揺れ止まずして陽炎(かぎろ)へる 
 阿波野青畝
   
十六夜のきのふともなく照らしけり
   蓑虫の此奴は萩の花衣
   山又山山桜又山桜

 
渥美 清
(風天)
   コスモスひょろりふたおやもういない
 安達ほたる
   吾以外全て季語なる花野かな(2021.10.25)
 
安達  淳二
 
  逞しさほめて雑草毟り取る(2017.10.2)
 安達  健治
   緋おどしの甲冑甲斐の秋の風 (NHK 2012.10月)

 浅井  民子
 
 てんと虫飛ぶほかはなき草の先 (俳句2012・11月)
 安西   篤
 
  沈黙の直球が来る桜闇俳句2014・1月 


一柳美恵子
   稲の穂にルボンのように赤とんぼ (2021.10.31) 川柳
一     斧
   我心いづこに置ん秋のくれ

何     処
  
空つりやかしらふらつく百合の花
飯島 晴子
  
萍(うきくさ)のみんなつながるまで待つか(季のうた)
飯田   晴
   空元気二つ三つ足し雪を掻く
(2019.2.4)
   新しきマスクに天地左右かな
   あこがれは昼顔そろふころの濤
藺草  慶子
  
叡山やみりみる上がる盆の月
池内けい吾
 
 桐一葉影を大きく落ちにけり
   旅ごころ枯野に入りて定まりぬ
   侏儒ひそみゐさうな螢袋かな
   朝顔の折目くづして咲きにけり
池田  澄子
  
平べったい顔をいまさら初鏡
  衷心よりといふふうに龍の玉
  じゃんけんで負けて蛍に生まれたの
石   寒太
   生も死もたつた一文字小鳥来る
石渡   旬
   初雀遊びなれたる田に降りぬ
市場  基己
   春の日の糸を垂らせる浦島草
伊藤  賢治
  
万作に囲いを解けと促さる(2016.5.2)
伊藤  白潮
 
  不退転とは春山の石のこと 
 伊藤 みよ子
 
  一雨で初秋の候と相成りし(2015.9.28)

 伊藤  弘   風薫る校歌歌へど母校なし(2024.5.12)
 伊藤  道明   戒名の一字がこぼれ出て蛍
 
伊藤  康江  何とこの寒き一茶の土蔵かな 
 伊藤  庄平  入日より取り出すやうに林檎捥ぐ
 伊藤 トキノ   ふるさとや山河切なきまで緑
 伊藤 伊那男  ふるさとの山河歪めてしゃぼん玉
         焼芋の一途の熱さ持て余す
 伊藤    肇  しづかにも一途なるもの雪降れり
 伊藤  政美  かりがねや送るとは立ち尽くすこと
         千年のうちのけふ見る山桜
         無位無官殻を大事に蝸牛
 茨木  和生  分校は大きな巣箱小鳥来る
 今井千鶴子  連立ちてつくづく一人春の月
         梟の鳴く帰らねば帰らねば
 伊野  朋月  骨を得て背筋の伸びし障子かな(2017.12.25)
         ざっくりと資産を開示柘榴かな(2015.12.13)

 猪股  凡生 
夜桜や遥か宇宙に人のゐて(、2014.4.28)
 藺草  慶子
  幻燈のごと春雪の舞ひはじむ
俳句2014・1月 
 板垣陽比古  穂を揺らし稲より高き野稗かな(2015.11.8

 伊丹伊智子  馬鈴薯の花の一番星開く(2023.7.24)
 伊丹三樹彦 
一草を掴んで離さず空蝉は
 伊津野朝民  春ゆくも人逝くも為す術のなし
 石山 九泉子 返りでも狂ひでも花咲かざる身(2018.12.17)
        咲き分けのつつじ同床異夢ならん(2017.7.3)
        田植衆一服地球に腰掛けて
(H28.7.11)
        初空や町より高き水平線「見事にとらえた意外性」

 石嶌   岳
  大和にはやまとのことば桜咲く(季のうた)
 石黒   知  階の一段ごとの褥暑かな(2023.9.18)
          炎天を仰ぐことなき意気地無し(2023.10.30)
          選ばるるときを待ちたるおでんかな(2017.4.17)

 石黒 ナツ子 
雨止みて啓蟄の村らしきかな(2018.4.16)
         前を行く燕に風を貰ひけり(2018.5.6)
         雨雲や茗荷の花の明るくて(2015.11.2)
         早乙女のままで月日のたちてをり(2015.8.24)
         つくしんぼ大き過ぎたるランドセル

 石井 美智子 振り返るほどの音立て朴落ち葉(季のうた
 石井 いさお
  大鷹や一万尺を羽の下も
 石井   冴  ものを言う度に吹かれて赤い羽根
           雛壇の仕組みを隠し飾りけり(「石の声」)

 石田 敏郎  
減反の果ての捨田や初螢(2017.8.7)
 石田なるみ  
啓蟄やトンネルを抜け東京へ(2024.5.11)
 石田  哲弥 
ふる里は青空に柿萱の屋根(、2014.11.24)
 岩野のぶ子  
ほととぎす声跳ね返る青峠(2020.7.9)
 岩田   奎  
仕舞ふときスケートの刃に唇映る
 稲田  晶子  
推敲に雨の一日蕗炊いて(2016.6.19)
 稲畑廣太郎 
水尾すぐに泡となりゆく涼しさよ(季のうた)
 稲畑  汀子  櫨紅葉にも燃ゆる色沈む色
        今日何も彼もなにもかも春らしく
        犬小屋を覗いて行きぬ初雀
(2010・1月 )
  
        宵の風忽ち冬でありしこと
(角俳2014・1月 )
 五十嵐順子  朝はまず雪の嵩見てはじまりぬ(2022.2.7)
 
五十嵐順三
  時の気の道乱れゆく春一番
 五十嵐播水
  数咲いて花かたくりは一つづつ  
 五十嵐達郎
  帰国して色なき風に染めらるる(2015.11.8)
 五十嵐史峰  もしもわれ寒禽ならばどう生きる(2013.3.18)
           諦めは安らぎに似て雪降り積もる(2013.2.18)
 今村 克治  交わらぬ縁の糸やいかのぼり(2024.5.11)
          みちのくのなほみちのくの葛の花(2023.12.4)
          青春はなべて断崖夏のはて(2023.10.23)
          狂うてもみよとつぶやく蛍かな(2023.7.31)
          亡き人を偲ばざらめ雪の日は(2022.3.28)
          愛憎は人の世のこと夏の蝶(2021.6.29)
          飯事は疾うにおしまひ花ざくろ(2017.9.18)
          しなやかに獣のやうに背より秋
(2013.8.19)
 井越 芳子  家春の雪見知らぬ人を思ひをり(角俳2011年「被災地にエール)
 石原 舟月  植田水なみなみと日の上りたり
          春惜しむ奔流に月さしわたり
          びつしりと雨とめどなき藪椿
          家並の上
(え)大船がゆく暮春かな  
 石原  八東  原地子がかげろふに消えゆけり(角俳2011・9月 )

 池田  澄子  前へススメ前へススミテ還らざる

 池田  雅夫  木の葉みなささやき合へる今朝の秋(2013.9.2)
 
池内 たけし  秋めくやああした雲の出かかれば
 池田琴線女  初空の鳥も景色となる湖北
 泉   克弘  新蕎麦のへぎ光ってる光ってる(2023.12.4)
          点滴で生かされ士日々夏休み(2023.8.13)

 和泉 千代
  幾世つぐ妻籠の軒のつばくらめ
 井出野浩貴  卒業す翼持たざるものとして
 藤沢周平「一茶」朝俳2003・6月)
 伊予部京子  日曜の目覚めふはりと緑さす(2023.7.17)
 伊野  名月 
汲まれても汲まれなくとも泉湧く(2013.8.19)
  伊野  朋月  どの色も月の色なるメダルかな(2016.10.24)
           今年竹地下で来季の謀( 2014.8.25

 今吉  滝千  真向かひに桜島置き鱚を釣る(俳句2008・10月)
 今井杏太郎 
ねむたさのはじめあたたかかりしかな
 
今井 大輔  山煙る野分のあとの木の葉風呂(2018.10.15)
 今井  消子  切りたての尖りたてなる西瓜かな(俳句2012・9月)
 今井富三郎  蟇おまえに藪を残し置く(、2014.9.1)
           へこたれてたまるか汗と涙拭き
(2013.9.8)
 石上  春世  嬰を抱く子は母の顔日脚伸ぶ(、2015.3.16)
 井上  論天  人も家も丸洗ひして暑に対ふ
          父が死に我も死ぬ家柿熟るる
          水無月の山が動きて人を呑む
          心棒の外れた母と野に遊ぶ
          羽抜鶏泪こらへる力まだ

 井上  弘美 
少年に藁のにほえる聖夜劇
           大潟の闇のざらつく鴨の群(俳句2014・1月)
 
 飯田鉄太郎  春の昼笛の穴から音が出て 
 飯田  万穂  大汗に張り付く下着脱ぐに汗(2023.9.25
 飯田  龍太  黒猫の子のぞろぞろと月夜かな
          何もゐぬ紅葉おのれをにぎやかに
          一月の川一月の谷の中

 岩田  由美  ところどころ外れてゐたる枝の雪(季のうた)
          水を行く鴨や減速また加速  (俳句2011・1月 )
 岩淵喜代子   水母また骨を探して漂へり(季のうた)
          蛍から蛍こぼるるときもあり  (角俳2011・9月 「柘榴」)
           地獄とは柘榴の中のやうなもの(角俳2011・9月 「柘榴」)

 伊部 一郎  一切を枯野としたる力かな  (N俳 2012.12月)
 今瀬  剛一  
* 省略を効かせ言外にの余白に諧謔を押し出す。
          船送り出して金魚に餌与ふ
          山滴りて海までの距離思ふ
          猫の恋かつて日本に縁の下
          林檎咲く頃と思へり手術中
          稲刈のはじめは稲に沈みけり (俳句2012・11月)
           買初の靴なり前途三千里 (俳句2014・1月) 


 牛田 修嗣  目ひらけば星目つむれば秋の声(季のうた)
 植木  とみ  天蚕のみどり耀う小枝かな(2023.7.24)
          生きる意味幾度も聞いて生きし夏(2021.9.27)
 
上谷 昌憲
  流星やまだ一人にはなりたくない
          ナイターの万の他人と唱和せり
           ナイターのとどめの犠打の転々々
 内海  良太  空也像の口の中よりフージア
 内田  美紗  三島忌や一斉に差すジャンプ傘
          風船の内の空気と外の風
          すかんぽを折って空気を鳴らしけり
 上山   勧  新じゃがと相愛を知るマヨネーズ(2023.12.4)
          直ぐ折れるこころすかんぽお前もか(2023.秋 俳壇賞)
          ほつとけば融け出す雪をほつとけず(2021.3.15)
          ちょつとそこまで猫じゃらしひき抜いて(2018.11.19)
          屈んだら立たねばならぬ草むしり(2017.6.26)

 上村  占魚 
大たわみ大たわみして鶸(ひわ)わたる
          夏の空すがし立山杉すがし
          月の色して鮎に斑のひとところ

 上村一九路 
動かざる蜥蜴の荒き腹呼吸(2023.7.9)
          老ゆるほど知らざるを知る暮の秋(2022.12.19)
          花も字も密過ぎはしないか躑躅(2022.7.24)
          ごみ袋両手に慶交はしけり(2022.2.28)

 上村  昭三
  南天の赤し赤しと雪の降る(2016.3.21)
 宇井  ナ間  零が生まれて千年後の夏の雲(N俳 2012.8月)
 
臼田  亜浪  けくけく蛙かろかろ蛙夜一夜
       
   山鶯や越の国原青く広く
               (「臼田亜浪全句集」s52.2 春日山 「越のうた散歩」より)

 臼田  亜浪  高芦に打ち込む波や青嵐

 上田五千石  秋の雲立志伝みな家を捨つ(朝俳2003・3月)      
              渡り鳥みるみるわれの小さくなり
 右城  暮石  生きるより死に近き声きりぎりす
           花の雨沁みとほりたる西行塚
(天水)
 
         山ざくら咲く直前のさくら色(天水)
  梅沢和記男 下総の秋や葦より折れはじむ
 植木  節子  電線の影をたどりて夏をゆく(2017.9.25)
 浦部   熾  厳かにみんみん鳴き始めたる
 梅田  ゆき  山鳩の啼けばなりこの春愁は(俳句2014・3月 )



 園    風  いかのぼりここにもすむや潦
 越    人  ちやのはなやほるる人なき霊少女
 江口  昭七  余り苗人勿体ないより可哀相(2018.7.2)
          並に稲刈り終えて手を合わす(2017.11.20)

 榎本  好宏
 
枯山の匂ひ哲学者のなれさう(俳句.2016.2月)
           小春日の遍くひとりひとりかな
(朝俳2003・11月 
 遠藤若狭男  百年も生きし貌(かほ)して山椒魚朝俳2003・6月)
 近江満里子  それはもう氏より育ち子猫飼う (角俳2010・10月)
 尾崎  放哉
 
一日物言はず蝶の影さす 
 小檜山繁子  英霊の幾万を詰め雲の峰 (角俳2010・8月 「雲の峰」)
 江部  鉄二  落ちさうで落ちさうでまだ屋根の雪(2013.2.18)


 大沢美千子 コクリートに干し蕨のごと蚯蚓(2023.10.2)
          猫の額の吾がネモフイラの丘(2023.6.11)

 大畑  善昭  あおぞらや木の芽草の芽こゑをあげ
 乙州(おとくに) 
暁のめをさまさせよはすの花
          すゞ風や我より先に百合の花

 大石  悦子
  千年を咲き千年の落椿
 大島 いと女 大いなる妊婦の一歩かたつむり(2023.6.11)
          入水するならば銀河の本流へ(2021.10.31)
 
大崎  紀夫 ヒメムカシヨモギは吹かれつつ枯れて(季のうた)
 大島  雄作  しやがみてもこどもになれず蝉の穴
 大関  靖博  花筏十字に卍そして渦
           トマト一個ほどの心臓吾にあり
 太田  寛郎  人妻をむんずと借りて運動会
 太田 うさぎ  星ごつたがえす寒天干場かな(季のうた)
 太田  土男 
いのちあるものこぞりて草いきれ
           土着とは草刈ることの繰り返し(俳句.2015.9月)
           この山があり川があり白鳥来
           耕して土の素性を覚えけり
 大高   翔  淡雪の一つひとつに神の息
           夜のさくら死者に生者に咲き満ちる
           何もかも散らかして発つ夏の旅
 大久保白村  蝉の穴みんな出口でありにけり(季のうた)
 大高  霧海  戦争の狂気訴ふ法師蟬
          沙羅落花白の矜持を失はず
 大谷  弘至  山もまた水のかたまり新豆腐
          かなかなや仏彫るにも屑が出て
 大野 明夫  一山を獲物に見立て紅葉狩(21.12.27)
          館内の迷子放送長閑なり(2020.4.20)
          剪定の脚立の上にて応対す
(2019.6.17)
 大野  鵠士  祈りたき色となりけり秋夕焼
 大野  崇文  乾坤のひかりすなはち返り花
 大橋 恒次  句を詠もう句は採られずも雲の峰(2020.6.14)
 大橋   晄  光源は灼熱にして寒の星
 大屋  達治  捨てし田を豊芦原へ還しけり
 大輪  靖宏  風神の恋の吐息や春一番(季のうた)
          天上の音を目で聞く星月夜
 岡崎  桂子  秋水の一糸まとはぬ鯉であり
           翼ぎしぎし白鳥の真下なり
 岡崎  光魚  神恨みゐる鮟鱇の小さき眼ぞ
 岡  久仁雄 名前までは聞き分けられず虫すだく(2018.10.29)
 岡田 一実  蟻の上をのぼりて蟻や百合の中
          まづ光のびて生まるるしゃぼん玉
           かたつむり焼けば水焼く音すなり
 岡田  史乃  見にもどる雛の売り場の雛の顔
 岡田  貞峰  錨星涼し早寝の漁夫のうへ
           塩ずしりと大地に置かれ牧開
 岡田  日郎  山茶花の散るだけ散つてなほ蕾
          雪渓の水汲みに出で星の中
           豪雨止み山の裏まで星月夜
           大槍に立ち涼風の中に立つ
 岡部六弥太   踊子草みな爪立てる風の中
 岡部  英一  春の昼活字にもある眠気かな
 岡安  仁義  はや風に靡く高さの今年竹
 小川 和恵  そら豆のさやの中なる横恋慕(2022.7.18) 元/ 恋恋慕かな
 
小川 健三  睡りたる花散るときもしづかなり(2018.6.10)
 小川  軽舟  暮れてなほ白まさりけり山桜(俳句2016.7?月)
           冬麗やシーツかわけば風はらむ(俳句2014・1月)

           闇寒し光が物にとどくまで
 奥名  春江  溺るるもよしコスモスの波ならば
 小原  啄葉  眩しさの日輪の中揚げ雲雀
          一弁もこばさず咲き満つる
          千年も戦後でよろし菫草
           一粒の露におとらぬ一句欲し
           水のごと平らに今年来てをりぬ

 太田 寛郎  沈黙も言葉のひとつ竜の玉
 大田 空賢   除雪車の積み上げ霊峰仰ぐごと(2022.5.2)
          いただきしキャベツに球技連想す(2017.1.218)
           新しき墓にりんごの映りをり(2015.12.13)

 小谷野秀樹  このごろのみづいろの空秋刀魚買う
 小熊  スエ
 備中の先に土くれ囀りぬ(俳句プラス 2020.6.13)
          嘘ひとつ綺麗に吐いて秋茜(俳句プラス 2020.10.10)
 小倉 英男  かまつかの終の姿を見ずに抜く(季のうた)
 小日山桂子 
雨上がる紫陽花の青空の青(、2014.8.25)
 小津  夜景  夏はあるかつてあったといふごとく(俳句2017,1月)
 小川真理子
  遠蛙月は裸身となりにけり

 小川  貴史  蓑虫のみののうちなる三千大世界(2017.11.6)
          影よ汝もしばらく眠れ木下闇(2018.4.8)
          次々に瞬間を過去へ紅葉風(2017.11.12)

 小浜十四子  太陽の国への出口蝉の穴(俳句2008・10月) 
 大川ゆかり  感嘆符疑問符動く蝌蚪の国 (俳句2010・4月 )
 大石 よし子  起き抜けの舌よく伸びて初蛙 野に遊ぶ原田泰治の絵のやうに
 岡田  小夜  植ゑ終へて海と照り合ふ千枚田
 岡田  史乃  かなしみの芯とり出して浮いてこい
 岡田  夏生  木に鶸鳴き野に日は満てり雪解村
 岡村 文彦  桐の実のからからと鳴り一人旅(2022.12.11)
 岡本  圭岳 
終活のまづ
鈴虫の甕捨てよ
 岡野  安代  我が暮らし見に来し父か銀やんま
(NHK 2012.9月)

 大島  民郎  島うららバスのゆくてに牛がまた
 大島  民介
 登攀のまづ蛍飛ぶ森をゆき 串田孫「山」
 大橋  恒次  レインコート着ている案山子日本晴(2016.10.24)
           朝刊は未だ来てをらぬ明け易し (句2014・7.6 )
 
大竹嘉頭尾  遠花火無声映画を観るがごと
(2013.9.2)
 岡  久仁雄  八十に何を急かせる秋の蟬(2017.9.25)
           歩く人見たかと聞かる冬の雨
(2016.1.18)
           頼もしく猛猛しくも稲青し
(2015.8.31)
           見る向きを変へて復路の花見かな
2014・6.16)
 
尾崎  放哉  あるものみな着て風邪ひいてゐる
          こんなよい月を一人で見て寝る
           春の山うしろから煙が出だした
           咳をしても一人
 奥坂  まや  みちのくの同胞にこそ花みちよ(角川2011年「被災地にエール) 
 大図 栄子  
分身の杖を忘るる小春空(2019.3.18)
 織田  雅人 
慷慨を酒の肴に暑気払う(2023.8.28)
          新旧の雪が馴染めず滑り落つ(2022.5.2)

 織田 博子
  死に急ぐ星もあるらし天の川(2023.8.21)
          一時は本気恋も紫陽花も(2021.8.2)
          惜別の宴もなくて弥生尽(2021.4.5)
 大塚 晃生  山古志の牛舎を出入りする螢(2017.7.24)
                     
動かねば血の重くなる三が日(2013.1..1)
 小野 あらた  絵も文字も下手な看板海の家
 小笠原和男  口上の三角四角燕の子 (角俳2011・9月 「三州足助」)
 大輪  靖宏  生き急ぐ人々に花散り急ぐ 俳句2012・5月
 大牧        広遠い日の雲呼ぶための夏帽子
           秋風や征きたる駅は無人駅

 荻原井泉水  わらやふるゆきつもる
 長場  利幸 
折る度に音心地好し大蕨(2022.6.20)
          野に山に嬉しさ余る若葉かな (2014. 6.16)

 織原 芳晴  西瓜種越すに越されぬ縁側よ(2023.8.21)
          嚔して魔女の一撃崩れ落つ(2020.12.13)

          
春の虹花びら落つるにわたずみ(2020.6.14)
 押切  安代 
裏返る海月には無き隠しごと
 小間  貴夫 蘖田や東京へ行く送電線(2022.10.5)
 小田  信雄 春埃はるかな国の戦塵も(2022.5.23)
          虎鶫一声新月中天に(2022.7.10)
 小越  米子  どこまでも波打つ出穂の香りかな(2020.9.21)
          雪無くて白鳥のほか白を見ず(2020.3.15)
          合格や越佐海峡風光る 
(2017.3.13)
        
  葬列を送る村人銀やんま(、2018.7.30)
          透きとほる月の光に身をゆだね(、2014.11.3)

 か
 花野  くゆ  万緑に呑まれぬやうに深呼吸(季のうた)
 霞   山旅  
春一番飛び立ちたがってるガスタンク 
 何   処   
空つりやかしらふらつく百合の花(猿蓑)
 川端  茅舎  春なれや満月上げし大藁屋
 勝本   孝  鳴きと響(とよ)む郭公に村動きをり(2023.7.3)
 春日 恭子  
緋牡丹に雨の重たき一夜かな(2018.6.10)
 桂   信子  
きさらぎをぬけて弥生へものの影(季のうた)
 甲斐 由起子 
はるかなる音に覚めたる白露かな(季のうた)
 甲斐  遊糸 
殉教も棄教も悲しほととぎす
 兼城   雄  
人は灰に人魚は泡に夏の月 
 樺沢  淳子 
雑踏に白杖の人白蛍(2016.2.1)
 櫂未  知子 
着水のとき白鳥の開花かな
          いちじくの火口を覗く夜なりけり
(角川2014.11)
        
  通草とはたそがれやすき肉を持つ(角川2014.11)
 神田十四男 
譬へれど地獄の酷暑誰も知らず
 加藤  静夫 
真実は新聞にあり開戦日
          墓は洗ったし白菜は洗ったし

 加藤  春子
 島ひとつ盗られてしまふ遠霞
 加藤いろは  大根の腹蔵なき白さかな(N俳 2012.12月)
 加藤三七子  犬ふぐり大地かがやきそめにけり 
 加古  宗也  @-春や子に欲し青雲の志 
 川崎  展宏 
湯の街は端より暮るる鳳仙花
                 (「葛の葉」s48・1 松之山 「越のうた散歩」より)
 
 上條   勝  裏山を奥の院とし花辛夷
 加藤  呵平  初鴨やみな見覚えあるやうな(2022.11.21)
          寒晴や万物白光放ちつつ(2022.3.21)

 加藤  耕子
 
片栗の花のなだるる寺の崖(俳句.2016.2月)
          青き踏む背骨一本たてとほし
 
 加藤 ゆうじ 
刃に触れてびしつと割れし大西瓜
(2018.9.9)
 加藤   克 
少しだが明るくなつて寒に入る(2015.2.23)
 加藤かけい 
木曾良夜くるま座と酒を酌む
          齢(よわい)四十を越えしおどろき啄木忌

 加藤  慈雨 
真上なるもの昼月と鳴く雲雀
 角川  源義  
花あれば西行の日とおもふべし
(「西行の日」昭和50)
 神原  栄二  人日や何を尽くさば妻いえむ
 神蔵   器 
初景色少し傾ぎてニオ二つ
          暮れ早し遠き山より近き山 朝俳2012・1月

           冬の川時間の束のごと流れ(俳句2010・1月 )
 川崎  康弘  北風の鬣(たてがみ)立てて駆け抜ける(NHK 2012.12月)
 
川口 利夫  町の子に山の子が取る通草かな 
 河原  哲也この空き家棲みつくもよし雪女(2016.3.28)

 
河野  南畦  桐の花人の世よりも高く咲き
 河本  朋広
  留学を決めて成人式の夜(N俳 2013.1月)
 加藤かな文  命あり ちりめん雑魚と いふ名にて  (俳句2010・4月 )   
           巻きついて 昼顔の咲く 別の草 
   (俳句2010・4月 )
 片岡真紀子  楪(ゆずりは)や失ひて知る親の恩
 金子 博文  
茶の花の透くほど雨のしきりなり(2024.1.8)
          深閑と冬空ひそむ水たまり(2023.12.10)
          生きてゐる事を肯ふ寒さかな(2022.2.28)
          一陣の涼風過ぎて二陣なし(2021.9.6)

 金子 照栄  
半月を顔はんぶんと言ふ子かな(2020.12.28)
 鴨下 千尋  
竹林の底を流るる寒気かな
 片岡  資郎  
しぐるるや海の中まで信濃川(N俳 2012.9月)
 
柄沢  蓮   藤房の甘きかをりの中とほる(2022.6.27)
          清明のででっぽうぽう澄み渡る(2022.5.23)

 笠原  徹
 清明や妙高山の映る池(2023.5.22)
 笠間  愛子  鬼灯の花も乙女のごときかな
 河東碧梧桐  燕去(い)んで部屋ゞともす夜となり
 河内  静魚 
話せさうな猫に声掛け秋の暮(夏夕日)
 河合    清 
剱立山月光の大伽藍(N俳 2012.10月)
 嘉代  祐一  長き夜や時の遅速と別物の(2023.11.12)
          先に死ねば皆いい奴花のころ(2023.6.19)


 如月かのん  もののけと見ている海の遠花火(2020.8.9 俳句プラス)
 木村  圭  
尺蠖の誤差を恐れぬ動きかな(2023.7.9)
          
桐箱に光の揃ふさくらんぼ(2022.7.10)
          燕去る伝言板の残る駅(2020.9.13)

 木村 敏男  
立ち止まるとき寒星の無尽蔵
 暁   台  
 はるの夜や何事もなき三輪の杉
          雛の間にとられてくらきほとけかな

 木下 夕爾  鐘の音を追ふ鐘の音よ春の昼
          夕東風の ともしつつ灯 ひとつづつ 
          繭の中も つめたき秋の 夜あらむ

 菊池 洋勝  呼吸器と同じコンセントに聖樹
 菊池 一雄  もろ花にもろ鳥唄ひ鑑真忌(季のうた)
 菊田 琴秋  一片の 恋しのばせて 花いかだ
          太陽の 国への出口 蝉の穴

 九    湖  
白鷺や野分を踏て立たむとす
 橘川まもる  
かたつむり肉むら少し露骨なり
          きさらぎの鮫の濡れ目の艶冶かな

 木付沢麦青 
花すみれ佛のあにいもと
        
  箒草ゆめ見るやうにもみづれり
 桐生垣瓜人
  甘藍の縦横面に瞠目す
        
  土の気に厭き蚯蚓の出で来たる
 木伏  礼子 南天の白い花咲く原爆忌(2018.8.27)
 木田  千女
  なにひとつ持たずに鶴の帰りけり
 木内  富子  噴水の穂先笑ひてすぐ崩る
 木内  怜子
  帰る家もどる巣ありて秋の暮
          うぐいすや鼓のごとき湖(うみ)の張り

 曲    翠  念入て冬からつぼむ椿かな
 去    六  
やまぶきも巴も出る田うへかな
 去    来
  梅が香や山路猟入ル犬のまね
          君が手もまじる成るべしはな薄
          あら磯やはしり馴れたるむら衛(ちどり)
          うごくとも見えて畑打つ男哉
 
 北原  春屏  早春のへ茫乎(ぼうこ)と欅立つ
           炬燵には発根作用ありにけり(、2014.2.24)
           青空へ自由演技のみずすまし
(2013.9.8)

 葛    三  姫松や野老(ところ)の根にはおよばざる
 岸田 雅魚  敗荷(やれはす)の風にいろいろ吹きにけり

 北嶋たけのり 風花の空の清流泳ぎをり(2019.3.18)
 北大路  翼 
俺のやうだよ雪になりきれない雨は( 季のうた)  *新宿「屍派」
 北川あい沙 
いちにちのをはりに思ふ巣箱あり( 季のうた)
 北   山河  八方に敵あるごとし水すまし
 北   光星  合はせたる両手の中の初景色
 北   さとり  足もとにありししあわせ花はこべ 
 岸原  清行  いのちみな太陽の子ぞ蝌蚪生るる
          来し方も行方も青き山河かな
 
 岸本  尚毅 
てぬぐひの如く大きく花菖蒲  
 岸本 マチ子 
狂うなら夏金星のごと発光し
 木田  千女 
ちゃんちゃんこ死なねばならぬ一大事
          次の世は蠅かもしれぬ蠅を打つ
          敦盛の五倍も生きて新茶飲む
          初富士にしみじみわれは日本人
          チューリップわたしが八十なんて嘘

 北見  弟花
 堅雪や死へのたてがみ立て直す
           零下三十度川あたたかく村に着
 岸  風三郎  寝ても思ふ冬の銀河のかかれるを(季のうた)
 岸風  三樓  池に降る雨こでまりを濡らす雨(「往来」s24.7「越のうた散歩」より)
 喜納 とし子  われの顔忘れし母に母の日くる
 京極  杞陽  蝿とんでくるや箪笥の角よけて

 菊地  芳女  青ぶだうきりりと固き乳房欲し
 木曽 武子  
おしゃべりの舌を焼かるる根深汁(2024.5.11)
          盆支度未だ死ねざる人として(2023.10.2)
          水分の足らぬ心へ降る銀河(2022.4.8)

 菊池   共子 
パンのみに生きるにあらず文化の(俳句2011、11月)
 木附沢麦秋  まだ出番あるかも知れぬ枯蟷螂

 

 
 
 黒崎 かずこ
花梨の実いづれ遜色なくいびつ
 久保田万太郎
叱られて目をつぶる猫春隣
 句    空  
むめが香や分入里は牛の角
 九鬼あきゑ  大花野鬼も仏も来て遊べ
 轡田   進 色鳥やケーキのやうなベビー靴
 日下野由季 
雨粒の大きく百合の蕊伝ふ
          またひとつ星の見えくる湯ざめかな
 黒澤麻生子  赤ん坊は水のかたまり十三夜
 黒井茶美子  雪おろし一閃歪みたる時空(2022.2.28)
 黒川  悦子 
のどけしやくねくね曲る里の道
           春の雪のふを覆ひつくしたる

 黒柳  召波  人心しづかに菊の節句かな
          七星の柄杓こぼるる蛍かな(2015.8.3)
 倉田  紘文  まんさくの花のくすくす笑ひかな
 倉田 明彦  春の鳶追はるるときも笛吹いて
 倉井  高志  終戦日武器造るなと呟きぬ(2015.10.6)
 倉田  素商 
風車ひとつ残らずまはりけり
 栗原 美枝   さあ葱の出番煮てよし焼いてよし(2019.1.7)
         
白葱のくたりくたりと甘くなる(2018.3.12)
 栗原 憲司
 三椏の花木の椅子に木の温み(季のうた)
 栗林  光夫  行書より草書へうつる春の風(俳句2014・3月 )
 鯨岡  正信  竜の玉弾みて天に登りけり(N俳 2013.1月)
 熊谷  静石  箱根駅伝坂白くして処女のごとし
 國弘  賢治  
みつ豆はジャズのごとくに美しき
 久保田万太郎 湯豆腐やいのちのはてのうすあかり
          走馬燈いのちを賭けてまはりけり

 原子  公平  良く酔えば花の夕べは死すとも可

 
 小鹿野バンビ 
星一つ消し飛んでいる嚔かな
(NHK俳句)
 高坂 玲子  
その中に蕾のままの落椿(2019.6.17)
 小浦三輝雄
  翻ること挨拶か初燕(2019.7.21)

 小西  昭夫 
前を行く元気なお尻稲の花
 小日山桂子 
穏やかにただ穏やかに春日差す(2019.5.6)
          音もなく可も不可もなし雪積もる(2019.2.11)
          冬の雨黙思の梅の肩たたく(2016.2.8)

 郡   嵐子  
雪渓の先鋒ひかる奥信濃(俳句2014.8月)
 小島千架子 
よこしまないろに咲き出づ鳥兜(朝俳2003・11月)
 後閑  達雄 
朝寝して車通ると揺れる家
 
後藤  道雄  雛の間に遊び疲れしをさなかな(2022.3.13)
          三日はや三日坊主は顔をだす(2019.1.28)

 後藤  夜半
  ほととぎすここここここと啼きをはりける
*地鳴きを促す句
 後藤  夜半  滝の上に水現れて落ちにけり
 後藤  幸子  どこにでも句材はあるさ蟻うろつく(2023.6.19)
          草毟る毟る字に少しとは何故に(2020.9.21)
          歩けるが故に躓く秋日和(2018.11.19)
          生徒減り目高高校廃校に(2016.5.9)     
          蝗なぜ虫に王なる所以かな(、2013.12.8)

 駒  志津子
  そろそろと且つ一斉に花きぶし
 児玉  浄信 良寛句繙いてゐるちちろの夜(2018.11.5)
 児玉  輝代
 白魚汲む白魚のいのち見えていて (俳句2010・4月 )
 小薮  虚洞 こほろぎの己たしかむごと鳴けり (俳句2007・10月)
 小島   薫 病室や咳痰と屁と蝉の声(2023.10.23)
 小島   健  鉞のごとき詩語欲し銀河
          夕されば常のこゑなり初鴉(俳句2010・1月 )

 小西  来山  花咲いて死にとむないが病かな 
 小林  義和  過去未来そして現在大切に(2020.9.28) 川柳
 小林  重雄 
日溜りは黄泉の入口老集う(2020.4.6)
          大寒を越えれば老等一安心(2017、1、30

 小林   実
  幾九万の兵死なしめしさくらかな
 
小林  博子  凍星の尖りて闇を寄せつけず(、2015.2.23)
 小林布佐子  この馬をこの子と言ひて息白し
 小林  四六 
大地よりむつっと離す草むしり(2018.8.27)
          蓋閉める茶筒の風や年つまる(2017.12.25)
          淡雪の雫拭いて回覧す(2014.4.13)

 小林 まどか 
拾われてポウストの上に夏帽子(2020.8.24)
          蝶ひとつ打ち水かわし舞いあがる(2019.6.24)

 
小林 風千  猫の戀もりあげるかに赤い月(2017.3.27)
          すべりひゆずつと補欠の球児なり(2017.9.18)
          春炬燵四十過ぎての親離れ(2017.5.1)
          ニオ
(かいつぶり) もぐり顔出すまでのミステリー(2017.2.6)   
          蚊帳に入る異界に挑むここちせり(2016.8.8)
          
いちどきに鴨飛び立つも僅差あり(2016.2.8)

 
小林  美智  鴨の群とびたち天地裏返へる(2016.1.11)

 
小林  千秋  くいくいと風噛みとんぼ風に乗る(N俳 2012.9月) 
           波の上をあるけさうな月夜かな(N俳 2012.9月)

 小林むつ子  馬鈴薯の花むらさきに爵位もつ

 小林  貴子  一対の獣の如き登山靴(季のうた)
          立春の風に嘴(くちばし)ありにけり
          千枚田千枚穭萌えにけり
          菱形に包む赤子や春の月

          
若葉には若葉のもののあはれかな
 小林 七重  
秋の蝶はぐれてゐるのかも知れぬ(2023.12.10)  

 小林  記代 
噴水のこのへんまでと折れにけり(.2014.7.28)
 木林  重雄  五頭三嶺を尾鰭で叩く鯉幟
(H28.6.27)
          ざわざわと背骨走るや風邪の神(2016.3.28)
          放射能あつてもなくても蝉は鳴く(2014.9.8)
 
 
古賀 まり子  今生の汗が消えゆくお母さん

 小鳩   巴  キナ臭い世に変わりなく雪割草(2022.5.23)
          今抜きし雑草勿忘草かも(2917.5.7)

 小山登志雄
 別るるに人は手を振る木の葉散る(2017.12.18)     
          そのために買ひたる海鼠一句成せ(2017.1.23)
          流れ来てここから海初景色(、2015.1.1)
          その時に使うのも良し初写真(20131.1

  小林  邦代  一句出来急ぎ起き出す夜長かな(2018.10.29)
 
小山  弥生 あの山へもう登れない夫十月(2023.12.4)
          草の芽の昨日の雨のにほひかな(2017.4.17)
          流星やまだ一人にはなりたくない(2016.10.31)

 小暮陶句郎 
轆轤(ろくろ)挽く春の指先踊らせて
          緑陰の谷の要の不動尊(2017.角俳.8月)
          
滝行の女の肌の緋鯉めく
(2017.角俳.8月)

 五弊 とみを 
立春の閂外すわが身かな(2018.3.26)
          どんど火の熱を持ち帰る釦かな(、2015.1.1)

 古賀  雪江 
峠越えどんと残れる雪であり
          雪解村一戸一戸の屋根の照り

 古賀勇理央 
芋の露二転三転して落ちず
          翁より蕪村親しや衣被(N俳 2012.9月

 児玉 浄信   煩悩をいさぎよく絶つ柿の花
 
こしのゆみこ 朝顔の顔でふりむくブルドッグ(2018.7.9)
 近     恵 
たんぽぽの絮祝われてさようなら
 近藤  ムツ  
山に入る冬満月に息をのむ(2016.1.25)
 近藤  トシ  
孫までが頬被りして雪国(2015.12.28)
 近藤   忠 
をなもみをくつつけ合うておくれゆく 
 近藤   博
  神奈備の閑かさよそに蝉時雨(2014.10.20)

 河野   薫  われ死なむ西行の花浴びしころ
 近藤  一鴻 
一病を余命に加へ花の冷



 沙   千子  春一番街のページめくりけり
 
坂田 和夫  明けやらぬ越の山々涼新た(2022.9.26)
          吾ひとり隣もひとり雪下ろす(2022.5.8)
          秋深し隣りはリモートの孤独(2020.10.26)
 
坂口 緑至  大山蓮華咲く日のひかりこぼさじと
 酒井  昭平 
飴玉を口に芽吹きの山に入る(2023.7.31)
          輪樏脱ぎて我が足取戻す(2021.3.15)
          天の川賢治の汽車で参ろうか
(2020.11.2)
 坂井 要一  
青田より風渡り村平和(2017.7.10)
 
酒井 春棋   シーグラス拾ふ吾子の瞳夏来る(2023.7.3)
          人知れず生えるが常の茸かな(2022.9.19)
 
酒井 弘司   飛ぶ電波見えず勤労感謝の日(季のうた)
          ててっぽっぽう山鳩春をつれてくる
          またたびの 花のことなど 昼の酒(俳句2008・10月)

          走り梅雨 円空仏の ひとりごと(俳句2008・10月)

 杉     風  がつくりとぬけ初むる歯や秋の風

 斉藤  志保  
蝶の来てそれを告ぐべき人の留守
 斉藤  志津
  手も足もしびれる日々や春を待つ(2022.4.4)
 斉藤朝比古  裂ける音少し混じりて西瓜割る
 斉藤  朗笛 
福耳と言はれ貧乏山笑ふ
 阪西  敦子 
焼薯の大きな皮をはづしけり
 榊原  伊美 
急ぎ帰らう白もくれんの錆はげし
          ひと死ねど川死なず青春戦ぐ

 佐怒賀正美 
宇宙塵ほどなく蝌蚪の国つくる
          大混沌つつむ春あり宇宙開く
 
小路千寿子  焼鮎の琥珀の油噴きにけり
 草子   洗 
 初空や神の隠るる杉木立
 沢木  欣一  天の川柱のごとく見て眠る
 桜井美智子  濠に浮く百の水鳥百の夢(2022.2.28)
          手袋の右手ばかりが旅に出し(2021.1.25)
          サングラス外せば空は生きかへり

          ダンプカー盛夏の家揺らし行く(句2014・6.30
 
 阪西  敦子  焼藷の大きな皮をはづしけり(N俳 2012.9月)
          人の上に花あり花の上に人(N俳 2012.9月)
 佐久間幸男  いつの間に枯れの盛りも過ぎにけり(2023.4.16)
          だんだんに粒のさびしき苺かな(2022.8.1)
          静かなる飢えの深まる蟻地獄(2021.9.27)
          トンネルを抜けてかぶさる蟬時雨(2019.4.15)

 佐々木幸子
  留守電に亡き友の声初蛍(2022.8.1)
 佐々木敏光  寒月光夜の女王然と富士(季のうた)
 佐々木有風  蜻蛉に空のさざなみあるごとし

 佐々木  風  山の子の井筒に遊ぶ雪解かな 
 坂本  祥子  修二会の火浴びて銀河にあるごとく  
 阪本  行世
  花冷や昼月淡き古墳村
 桜井 美穂  減薬を始め一年水温む(2024.5.11)
 桜井  貞夫 
ひととせの出来事告げて墓洗ふ(2022.12.19)
          畦歩く前もうしろも青田風(2022.7.10)

          
穏やかにひと日の暮れて日脚伸ぶ(2020.2.24)
 桜井 さち子  
生きること筋を通して蕗をむく(2022.6.20)
 
桜井  一尾 
大霞富士を溶かしてしまひけり
 斉藤 花子  
天心の広ごりゆきて鬼やらひ(俳句プラス 2021.2.14)
 斉藤  美規  日の暮れしよりてのひらの風の盆
 斎藤  敦子 
蓑虫や庭師に日陰刈り取られ(2022.8.22)
          我が墓に手頃と思ふ茎の石(2018.3.19) *漬物石
 
斎藤  史子  ばらの芽のいくつ種火のごとくあり

 澤中  範子
  スノーフレーク駈け抜けて行く女学生
 澤井  洋子  穴を出て蝉還らざり秋の風俳句2011・11月 
 齋藤 礎英  葡萄酒の赤裸の心 酒的唯物論

 佐藤  脇子  子供には雪でころんだこと言わず(2022.2.21)
 
佐藤  武彦  大欅万葉捨てて初日浴ぶ(20131.1)
  佐藤  良次  ほとんどを銀河が占むる峡の空
(2019.12.2)
          異次元に入りてなほ鳴く揚雲雀 (H28.7.25)
  佐藤  三仁 活着の植田のいろとなりにける(2020.7.12)
 佐藤 村夫子 
冬うらら昭和持ち去る回収屋(2024.2.22)
          風鈴の呂律廻らぬほどの風(2023.8.7)
          露の世といふに寝過ごししてしまふ(2022.12.11)
          文化の日好も嫌も女偏(2022.12.19)
          ゆたんぽの湯を捨て昨夜と決別す(2022.2.28)

 佐藤豊太郎  
推敲に虚あり実あり帰り花(2024.1.15)
          星空に来し方語る捨案山子(2020.11.8)

 佐藤  郁良
  不可能を辞書に加へて卒業す(N俳 2012.12月)
 佐藤  鬼房  やませ来るいたちのやうにしなやかに
          いくつもの病掻きわけおでん食ふ
 里見 念法  生きてこそ釣瓶落しに鍬洗ふ(2021.12.12)
 佐藤  武彦
  大欅万葉捨てて初日浴ぶ
 佐野  良太
  虎の尾の雨ためて昼ほととぎす
(「樫」s17.12 春日山 「越うた散歩」より
 笹下蟷螂子 
夫藍や王家に残る血の記録
(N俳 2012.10月)
 笹崎 竹三  「花水木咲いたよ」妻の太い声(2023.6.5)

 笹原  鳳作 
青麦の穂のするどさよ日は白く
 
 し
 地引  長安 稲刈れば忽ち村は冬の貌(2023.11.20)
          点滴や遠く響(とよ)もす祭の夜2023.8.23)
          風刺さる親無き里に虫と居る(2023.11.6)

 柴田三津雄
  ビール泡立ち銀河系滝の星(俳句2008・10月>) 
 
塩見 恵介  キャンデイを谷に落とせば虹の種(季のうた)
 示     峰 
蓮の実に軽さくらべん蝉の殻
 支     考 
涼しさや縁より足をぶらさげる
 志鳥  宏遠 
畑のもの光らせ春の霜消ゆる(季のうた) 
 丈     草 
ぬけがらにならびて死る秋のせみ
          水底を見て来た貌の小鴨哉

 白浜  一羊
  湯気立つる堆肥の山や初景色
          白鳥の鳴くは 苦悩を吐くごとし(俳句2010・1月 )

 清水  収三
  千里来て はや巣繕ふ 燕かな
 下村  非文 
雲海や 槍のきっさき 隠し得ず

 下田順一郎  煩悩を消し去る力桜どき(2023秋俳壇賞)
 下田  実花 
少しづゝ用事が残り日短(季のうた)
 
車    来   この寒さ牡丹のはなはまつ裸
 しなだ しん  盆栽になつて百年風薫る
          秋しぐれ新選組のやうに来る
          屋根伸びてきて屋根の雪落ちにけり

  柴田白葉女  まんさくは薄日の力溜めて咲く(季のうた)
 柴田佐知子  打首の姿に髪を洗ひけり
          蛇死して正しき長さ曝しけり

 柴田  久子  身にしむや仏になれぬ木屑 散る
 
柴野  月絵  葛の葉やうらみの風の吹き抜けず(2018.4.8)
          柔らかや蟷螂の子の天衣 
 島田  一歩  空もまた人の世のもの春の月
          白鳥にとんびはとんでばかりゐる

 嶋田  麻紀  幸せのぎゅうぎゅう詰めやさくらんぼ
 白    雄  
なけば鳴くふたつの山のかんこ鳥
 白石 喜久子 
松の根に子供が座る祭りかな(鳥の手紙)
 白井  松風 
蜻蛉群れ飛ぶ山の静けさに(2016.11.28)
          雪の原遠き米山昏れんとす(2016.3.14)
          田帰りの声懐かしき夕蛙(句2014・6.16)

 白川  代香  どの草にも優しく梅雨のゆきわたる(、2013.10.7)
 白川  京子
  チューリップ師団一兵卒ばかり
 篠塚しげる
  蟷螂の風に斧をあぐ愚かさよ
 篠崎  圭介  一つだに落ちざる椿畏れけり
 篠原 鳳作  しんしんと肺碧きまで海の旅
 篠田悌二郎  草踏めばあをきがとべり青かへる
 
篠原   修 
勝手口十薬咲いて清清し(2020.8.16)
          大根切る嘘も隠しもない白さ(2019.2.11)

           
葉桜の中の無数の空さわぐ
  篠原   梵  いてふちりしける日なたが行く手にあり
 柴田白葉女  
まんさくは薄日の力溜めて咲く
 嶋田  麻紀  霜月の短き襟を立てて行く(角川2015.12月)
 渋谷   杜  
山村の昼音もなく春がゆく(2020.5.25)
 渋谷 まこと
 健在を装ふ日々やカイロ貼る(2019.1.7)
          足萎えのすり足の径こぼれ萩 (2016.12.5)
          ゆったりと甚平を着て何もせず
(2013.8.19)


  須田  久男 修羅場抜け来しががんぼか脚足らず(2023.8.21)
           来年は参らるる身か墓掃除
(2023.10.2)
  杉田  菜穂
  短日の三時四時五時六時かな
  杉本  光祥  残照の神の雪嶺に合掌す  (角俳2010・8月)
  菅原 さだを ふゆぬくしかなしいときも仏笑む
  菅沼  琴子  
新しき辞書を手にして風光る
 
菅野恵美子  狐火さへも/村を離るる/事となり(2021.2.22)
  須藤  常央  止みさうで止まざる鼾去年今年
           神仏に祈らず花に祈りけり
           人々に夜空は一つ揚花火 
 
  杉浦  圭祐  * シンプルな言葉によるおおらかなリズムで原初的な感覚を呼び覚ます(神野紗希)
          蜥蜴出て光の壁にぶち当たる
          猪は棒一本で運ばるる

          
誰の子と思いて我を見る鯨
          八方に跳ねる檸檬を洗う水
          葱を切るときに葱から風の吹く 

  すずき 巴里 
メーデー歌昔語りに歌ひたる(季のうた)
  鈴木久美子  大氷柱くだけて青き破片かな(季のうた)
  鈴木  玲子 
村中の蛙鳴く夜となりにけり(季のうた)
  鈴木   明  しぐれて二人月面にいるようじゃないか
  鈴木多江子  魚も木にのぼらむほど陽炎へる
          空也忌の口を出てゆく返り花
 
  鈴木 牧之 
鶯や老いても我に倦まぬ声
          過ぎ行けハ跡の床しや若ば山
          山畑にあたら盛りや桐の花
          人稀なな山路に咲くや合歓の花
          白雲も折節ハよし若ば山<以上寛政4年 1792年>みね18番
          そつと置くものの音あり雪の夜
 
  鈴木  紀枝 
天牛や星のひしめく峡の谷(俳句.2014.8月)
 
鈴木  節子  
敬礼の五指風を切りにけり(角川2015.12月)
  鈴木  花蓑
  大いなる春日の翼垂れてあり
  鈴木 しづ子 
夏みかん酸つぱしいまさら純潔など (指輪)
          娼婦またよきか熟れたる柿を食ぶ
 
曾     良  くりかへし麦のうねぬう小蝶哉 
 鈴木 太郎   花筏見えぬ観音のせてゆく(俳句2011・11月 
          
 *写生するだけでは報告になり飽きてしまう、見えないものを見えるように
  鈴木  鬼房  がらくたの余生の冬と思へき
  杉原  祐之 それぞれの色に熟して実梅落つ(季のうた)
  杉田  久女 
谺して山ほととぎすほしいまま
  杉阪  大和  コスモスの倒れきれざる倒れ方



 沾    山  せきれいのかぞへて飛ぶや石の上
 仙田 洋子  
山笑ふ胎動ときにへその裏(季のうた)
 千   草子  
初山河流れは未来繰り出しぬ(2019.2.25)   
 仙   華   
気相よき青葉の麦の嵐かな
 蟬    吟  
大坂や見ぬ世の夏の五十年(祖父が藤原良勝)
 瀬群 十青   
病室のツタンカーメン大くさめ(2015.12.13)
           かうしては居れぬと言ひつつ炬燵かな
          百年を屏風の中で踊りけり(2015.3.23)

 関根  かな  蜩はこの世を借りて泣いてをり
           雪遊びしてゐる声が空からも

 関森  勝夫 
冠雪の富士見そなはす羽衣能(季のうた) *見るの尊敬語
          十牛図抜け出て牛の緑陰に
          ひたと来て声に火のつく油蟬
          定年後大志なければ朝寝する

 関根  壽夫  父の日やせめて夕餉の独り寿司(2022.8.15)
          虫干しの父の軍服厳めしき(2021.8.30)
 関根  洋子 
昼月の生み落したり海月かな
 関   悦史 
襤褸屑轢かれ顎の骨見え狸らしき(俳句2017,1月)
 関    ミヨ  
野に咲いてこその野菊や手折るまい(2017.1.23)
 関口  恭代  お日さまが見たくて蝌蚪の浮き沈む
           ぽっと吐く泡は金魚のひとり言
(俳句2012・11月 

 

 宗田  安正  竹林を揚羽はこともなく抜ける
 曽根   毅  この国や欝のかたちの耳飾り
 染谷佳之子  ヒロシマ・ナガサキ以後を迂闊に踊りゐし
 宗    次  
じだらくにねれば涼しき夕べかな
 曽    良  
松島や鶴に身を借れほととぎす 姿が相応しく無いのでの意味  芭蕉の句とも言われている
                     
いづくにかたふれ臥すとも萩の原
  
 玉井  淳子  
生涯に節目はいくつ冬木の芽 (季のうた)
 高津百合子  
蔓ものを手繰ればいとど跳びだしぬ(2022.11.7)
 高井 几董   
生きて世にひとの年忌や初茄子
           涼しさに花屋の鄽(みせ)の秋の艸
           かきつばた魚や過けむ葉の動き

 太    祇  
 怠らぬあゆみ恐しかたつぶり
           空遠く声あはせ行小鳥哉

 高澤  晶子  
学校と家庭の間冬日射す
 田川飛旅子 
 冬の痰三日月形に踏みにじる
 高山  誠子 
 一人居の歩けるだけの道を掻く(2017.12.25)
 高尾秀四郎 
 木の実落つ大地は釈迦の手となりて
            クローバー四つ目の幸まだ見えず

 高岡   修 
 死者のための椅子ひとつ置く五月の野
            月光の立棺として摩天楼

 高田  正子 
 あをあをと山きらきらと鮎の川
 高橋  日草   神棚の優曇華神を恐れない(2017.8.21)
            囲解く枝に一発見舞わるる
 高橋  将夫   田一枚知り尽くさむと蜷の道
            一瞬の時空のゆるみ氷柱落つ

 高橋  睦郎 
 ロンロンロンヴァハッハッ山笑ふ
           春めきをいくつ重ねて春深き
           小鳥頻り飛ぶ下にしてわれ醜
           憤怒なる慈悲あかかと初閻魔

 高橋  洋一 
 雪をんな見ぬ上州に風をんな
            妙義山まるごと洗い雷雨去る

 瀧宮  虎風 
 当然のやうに父母をり春の夢(2017.2.27)
 
滝   春一 
 啓蟄や爺婆たちもひた駆くる
            をさな子はさびしさ知らね椎拾ふ
            老鶯やホーホケキョキョーにケキョ足せり

 高木  泊舟 
 除夜の鐘御恩御恩と聞きにけり(、2015.1.1)
            よろよろと障子の桟を春の蠅(、2014.5.19)
            この頃は殿様蛙見申さずの酔っ払い
            ほうほたるほうほうほたるご一統

 玉木  豚春
 
 豊年の田に一礼し刈りはじむ
             (「微笑」s55.4 亀田 「越のうた散歩 」より)

 竹久  夢二   ほととぎす何もそんなに啼かずとも
 竹岡 一郎   
自傷あまたの四肢暮れなづむ学校プ-ル
 竹下しづの女
 短夜や乳ぜり泣く児を須可捨焉乎
       
 多田  桐子   浦島草 糸たれて 暇もてあます
 高杉  光昭   朴落葉音をたひらに置きにけり(N俳 2013.1月)
 高柳  克弘   日盛りや動物園は死を見せず
            橋はねむり川は覚めをり初便(俳句2010・1月 )
 
 高澤  晶子
   白波を繰り出してゐる朝霞
 高橋  幸子   躓いてこの世の際の花吹雪
 高野  素十   野に出れば人みなやさし桃の花
           美しき春潮の航一時間
 
 橘   以南 
 朝霧に一段低し合歓の花
 立石  幸子  
本懐は食はれることよ柿たわわ(2024.1.15)
           掛声は聞いたことなし蟻の列(2021.8.2)

 滝沢  昭子 
 立春の空青きまま暮れゆける(2016.3.21)
            春来ると信じて座しぬ寒の底(2016.3.7)
            荒海の音より来たり初時雨(2015.12.13

            鬼も蛇も仏も何処雪降り積む(2013.2.18)
 田代  青山   空蝉の地底掘削探査服(季のうた)
 田島  和生
   あふ向きに死にゆく蝉へ蝉時雨
            寒明けの野鯉逆さにうねりたる
(俳句2014・3月 )
 田中  昭子  
冬ぬくし生命線に薬のせ
 
田中  謡介 
 夕焼けの歌 子ら育ち われら老い 
(NHK俳句 2012年7月)
 田中  久真   おらほうのごつつお「け」てくれのっぺ汁(2017.2.20)
           肩書も名刺も要らぬ雪女(2017.2.27)
            一歩出て山に近づく登山靴(2016.8.15)
           鼓草ぬけがらの里うづめけり(2016.4.18)

 田中  亜美   雪・躰・雪・躰・雪(N俳 2012.10月)

           はつなつの櫂を思ひし腕かな   (N俳 2012.11月)
 田中  博美   舟となり落葉寄せ来る露天風呂
(2015.12.28)
 田中  章夫 
 切り株のいつもの席に雉座る(、2014.4.28)
 田宮 尚樹  
 十薬の何も交えぬ花ざかり
 田村 寛子   
可惜夜の花に秘密をこぼしけり(2021.4.11俳句プラス)
 田村 江山   一雨に芽吹く音する雑木山
(2019.2.18)
 
田村太刀雄   盆来るころと思うころ来る初燕(2018.6.25)
           盆の客赤子がひとり増えてをり(2015.9.7)
 田口  紅子  
梔の実に金声のありぬべし(季のうた)
 棚山  波朗  
漁のなき浜に根を張る馬鹿の花(季のうた) *はまごう 浜香
 たむらちせい
 真籬の光となりし蛍かな(角俳 2016.5)
           神家系絶ゆることを恕せよ燕の巣(角俳 2016.5)
 
 立原  正秋 
 冬のつぎに春となるを思はず
 竜岡   晋 
 後の月鼬に鯉をとられけり
 谷沢  ふみ 
 竹桃少女の舌のピアスかな(2014.9.8)
 探   丸   
 一夜一夜寒き姿や釣干菜
 旦  藁(こう) 
死ぬるまで操なるらん鷹のかほ
           なら坂や畑うつ山の八重ざくら
           今は世をたのむけしきや冬の蜂

 探     丸  
蜻蛉や何の味ある竿の先



 
樗    良   雲散りて月の動きのなき夜かな
 長   準司
   草刈の始めと終わり鎌を研ぐ(2016.9.19)


 柘植  史子   ひと色へ向ふ閑けさ式部の実
           蜜豆や話す前から笑ひをる(季のうた)

 坪内  稔典
  びわ食べて君とつるりんしたいなあ
           軍艦は嫌いおでんの豆腐は好き

        
   三月の甘納豆のうふふふふ2016.10.31)
 


 富山テル子  
ふいと風すいと茅の輪をくぐりけり(2023.8.13)

 十河公比古
乗り越せば違ふ人生秋の雲(2023.12.10)
   時田   桂  秋耕や遠く静まる山の容(なり)(2023.12.4)
 富吉    浩  
もう空を容れず青田となりにけり
           セーターの胸へと視線行きたがる
            二百十日空ごと雲として動く

 富安 風生   
大らかに孕み返しぬ夏のれん(季のうた)
           小鳥来て午後の紅茶のほしきころ
           大寒と敵のごとく対ひたり
           話し寄り話し別れて草取女(季のうた)
 富沢赤黄男   戞戞(かか)とゆき戞戞と征くばかり
 富川美枝子   ねぎ坊主走れ登校の大頭
 鳥井  保和   日脚伸ぶ一話おまけと紙芝居
 鳥居  三朗   あたたかや舟うつぶせにしてありぬ
           栃の葉のかさなりの下涼しかり  (角俳2010・10月 
 鳥越 やすこ   勿忘草その色の眼の帰化楽士
 豊長 みのる   きのふ見し山を越えけり初しぐれ
           嗅ぎをれば薔薇に息ある如きかな
           生き死にの道はひとすぢ冬日炎ゆ

 戸恒  東人  てにをはを省きもの言ふ残暑かな
 豊里  友行    ういるす籠りの銀河系をごらん
           苦瓜の種とつて詰め込む核兵器(ういるす籠り)

 豊   英二   夕焼は 青鬼を恋ふ 赤鬼か (NHK俳句 2012年7月)


 中野  博夫   過去は何時も波乱万丈割れ柘榴(2023.12.18)
           雨止みし泥濘の蚯蚓の歓喜(2023.7.17)
           故郷に根を張って色変へぬ松(2018.11.19)
           夏燕大河は急に曲がれざる(2017.7.31)
           をちこちに傷持つ古稀の裸かな(21017.8.28)
           考といふ巨き塊冬隣(2017.12.18)

 名村 早智子  
葉桜となりて雑木に紛れゆく
 行方  克巳   
みんみんのみゅーんと力抜きにけり
 ながさく清江 
 花筏水に遅れて曲がりけり(季の歌)
           てつぺんが好きな鴉や冬夕焼け

 南雲  悦子 
 アーバンベアなどと呼ばれて彷徨へる(2024.1.8)
           涼風を求め歳時記開きけり(2023.10.2)
           間引き菜といへど大根の香を放つ(2020.11.16)
           一途ともまた愚直とも鉦叩(2020.11.2)
           黙祷のしじまに蟬の声響く(2020.9.21)
           畑より連れて帰りぬ蚊一匹

 長場   利幸  
労癒す二合の酒と蜩と(2014・9.15)
 
波戸岡  旭   耕して島は天頂まで潮騒(角俳2011月 )
 内藤  丈草
   引きよせて放しかねたる柳かな
 
 内藤  恭子   夏椿明日は失なふ燃ゆる白(2013.8.19)<
 永方  裕子   
きのふより山が退(しさ)りて半夏生(季のうた)
           万両の万の瞳の息づきて
(季のうた)
 永   智子 
 垂直に降りて地を行く雲雀かな(2017.5.1)
 永田  耕衣
   野遊びの子等の一人が飛翔せり
           牛飛んでひびく堤や桜月り

 中島  吉子  
清明の風を象る川柳(季のうた)
 中島 あきら
   山は秋肩の力を抜くような (俳句2007・10月)
 行方  克己 
 嘘っぽい本当より嘘ゼリー食ぶ(朝俳2003・9月)
 夏目  漱石  
腸(はらわた)に春滴るや粥の味
         
 生きて仰ぐ空の高さよ赤蜻蛉
 中高  純子   逃げたがる枝を封じる雪囲い( 2015.2.8)
 中田  成子  
着色も添加もなくて初霞
(俳句2011・1月 )
 中川  岩魚
  
立つ海市にも今昔のありにけり 海市=蜃気楼
 中川  草楽  
石舞台かく在りつづけかぎろへる
 中条   健   朝露に濡れてもうれし蕨狩(2022.7.10)
 
中条   護 
 七十年平和の続く夏の空
(2015.8.24)
 中沢  安子  
温め酒心の傷に触れたがり(俳句プラス2020.11.14)
 中澤加寿子
   ゆるやかに闇が動きぬ沈丁花
 中村 与謝男  涅槃図に鯨入るべき隙開けよ
 中村 梨枝   
竹箒減りし勤労感謝の日(2024.1.8)
 中村美恵子
  
振り向かず征きしおとうと青胡桃 (朝俳2003・11月)
 仲    寒蟬  
五月雨や電柱森の夢を見る
            千古とはひぐらしのこの繰り返し

 仲村  青彦
 
 ポケットの中もひとひら春の雪 
 仲野   茜   啓蟄や弱虫起きぬやうにして(015.3.23)
 中嶋  秀子
   アネモネや来世も空は濃(こ)むらさき

 中原  幸子   アネモネの前の口下手同士かな
 中原   梓
   無心という遊ぶものあり鯉のぼり 
俳句2012・5月 

 中納弓生子   神捏し泥より生れ青山河
 中田  瑞穂   
青蛙こやつ仲仲泳ぐなり(まはぎ)

 中高  純子   向日葵の芯の密集強面(、2014.9.1)   
 成瀬櫻桃子 
 啄木鳥や木を叩き日を傾かす
 成田  千空
   雄の馬のかぐろき股間わらび萌ゆ
           昨日今日明日赤々と実・瑰(はまなす)
 中嶋  茂子   手の蛍覗きて乙女面輪見ゆ
 中嶋  陽子
   鈴虫の羽ととのへてから鳴きぬ( 季のうた)
 中曽根康弘   くれてなお命の限り蝉しぐれ
 中尾  昌吾   あき澄みて昏きものみな輝けり(2021.10.25)
           死の光いのちの光白障子(2020.2.24)
           存在の朧のごとき核心と(2020.4.6)
           梅雨の世に灯をともすごと句を詠まむ(20117.9.4)
           闇の極みひかりの極み涅槃雪(2018.3.12)
             *2月13日ころ
           水温むすべての謎の解くるごと
(2017.6.11)
 中塚  唯人 
 木瓜の蕾ふくらみエロチックひだまり
           争ってる場合じゃない春の尻尾が逃げてゆく
           コブシがパーツとやがて桜がピースだ
           公園の紅葉踏むわたしの中の自然

 夏井 いつき 
 柳葉包丁みたいな幽霊ではないか
           野は清ら寒の月夜の水清ら

 中尾  文貞 
 小春日の明かりにいます技芸天(N俳 2012.10月)

 中山美奈子   秋蝶やおもひ窺ふ様に来て(2018.10.15)
           地を覆ひ蕗は雨受く嬉嬉として(2017.6.11)

 長嶺  千晶 
 炎帝へ糸杉の渦あらがへる
 
永村ひでを    凡太翁漕ぎ出す黄泉の春の海(2022.3.8)
           S席は竿の先なり赤とんぼ(2021.12.12)
           老いるとは友の減ること冬木立(2021.12.12)
           晩学のさらに独学吾亦紅(2021.10.31)
 
永瀬  十悟   牛虻よ牛の泪を知つてゐるか
(須賀川市 原発事故)


 西川 火尖   非正規は非正規親父となる冬も
           何もいらないのに雪が降りにけり
           芒にはならぬと何度言はせるか(サーチライト)

 西巻  浩司   
葉を食べる蚕の音の静寂かな(H28.6.27)
 
西池  冬扇   仰向いて銀河の中へ落ちてゆく
           岩鼻に引っかかりたる錨星

 西山 春文  
 白銀(しろがね)の川 銅(あかがね)の麦畑
 西山   睦
   今あるもやがては遠き日春の昼
           隅々に若布の匂ふ蜑の小屋
           生きてゐる指を伸べあふ春火桶
(俳句2012・11月 




 布川 武男
 青空をむさぼりのぼる葛の花

 野村  陽子  設(しつら)いの言われも習ふ菊の宴(季のうた)
 野呂    和
 めぼし付け残雪の上墓参り(2022.5.23)
 野     童   じねんごの藪吹く風のあつかりし
 野口  夏桐  
つばめ去ぬ野に置きざりの遠筑波
 野見山朱鳥
   向日葵立つ遠のく汽車の響き享け
           水の上の澄みしひかりの秋のひる

        
   かとに打つ小石天変地異となる
 野木  桃花  
花八ツ手ぽんぽんぽんと晴れ渡る
            冬の川時間の束のごと流れ(俳句2010・1月 )

 能村登四郎   手をつなぎくる湖の小春波
           ほたる火の冷たさをこそ火と言はめ
           まぐはひに似て形代の重ねあり 
           落ちる時椿に肉の重さあり
           だまし繪のやうに鳥をり枯木立

 野原  晃山   雪女サランラップで包もうか
 野沢  節子  
大寺の月の柱の影に入る
           
こほろぎのこゑのひかりの夜を徹す
 呑     冥  
甕の酒毎日へりてちからなき
 野中  亮介   
清明や天餌足りたる鳥のこゑ(季のうた)
 野見山朱鳥
  
かなしみはしんじつ白し夕遍路


 早川   徹   かごめかごめうしろにだあれもゐぬ落葉(2023.12.4)
           またひとり逝き寒村の夏のゆく(2023.10.2)
           柔らかぞ螇蚸の腹はことのほか(2023.11.12)
           中の吾の身の上に二星あり(2020.9.28)

 林  十九楼  
三寒と四温の間に雨一日
 畠山  典子  
蚕豆やすばやく過ぎる適齢期(2019.6.24)
 配     力  
いとゆふに顔引のばせ作り独活 いとゆふ=陽炎
 半     残   
草むらや百合は中々花の顔
 
秦   夕美   生きてまた使うことばや初暦
 
波戸岡  旭   丹頂の己が息にてけぶりあふ
           春の雲どこちぎつても旨さうな
           水澄みて才気眠たくなるばかり

 
波多野爽波   じゃがいもの花の三角四角かな
 
服部  郡司   食ひはぐれなき面構へ成人式(N俳 2012.12月)
 服部  真広   竜の玉青き地球のひとしづく(N俳 2013.1月)
 蓮井  崇男   水底の鯉の動かず冬の雨 朝俳2012・1月
 
浜田 良男  こどもの日柱の瑕の兄は亡く(2023.6.11)
 
濱崎  敏郎   その尻をきゅっと曲げたる秋茄子
 林   惣峰   一斉に芍薬の芽のつんつんと(2022.4.11)
           墓洗ふ父の遺骨は硫黄島(2021.9.20)
           やはらかき棚田の畔の蕗の薹(2019.3.11)

 林    桂  
 二の腕に風の来てうる稲の花(季のうた)
 林    翔  
 お降りや松に宝殊の装いあり
 林    紅
  
 春風や蝶のうかるる長廊下
 林    徹
   勾玉の慈姑(くわい)泥より掘り出せり
 長谷川理風   老いて知る生きてることが丸儲け(2020.9.21) 川柳
 長谷川かな女 ラテアート乱れて夏の恋終わる(2021.9.27)
 
長谷川かな女
 紫の泡を野に立て松虫草
           鴨の嘴(はし)よりたらたらと春の泥

 長谷川 秋子
  燃えて燃えて紅葉失ふもの多し 
           
(長谷川秋子全句集 角俳2010・10月)

 長谷川零余子 行く春や妹の墓小岩ほど  
 長谷川  誠   吊り橋を子猿も渡る山の春(2023.6.11)
           伊夜彦も稲架木も隠す夕立かな(2022.9.26)
           戦なきああ日本の麦の秋(202,7.24)
           実石榴の如き百寿の大嗤ひ(2022.1.24)
           凩や満さんの風千の風(2022.1.17)
 
長谷川素逝
   いちまいの刈田となりてただ日なた
           しきりなる落花の中に幹はあり(季のうた)
           さんしゅゆの花のこまかさ相ふれず
 長谷川敏美   黄泉の国行ってくるぞと四月馬鹿(2022.5.23)
 
長谷川  櫂   戦死すべて犬死なりき草茂る  
 長谷川富佐子 蛍出て闇いきいきとしてきたり
 
長谷川直子 
 胸抉る医師の言葉を炎天に(2022.9.26)
           オリオンの声が聞こえたやうな夜(2013.3.18)
 早川智恵子   朝顔の最後の色は空の青(2021.11.14)
           見尽くして蓮の香まとひ眠りたし(2019.9.2)
           境目のなき空めがけ鳥帰る(2018.4.23)

 原石鼎(てい)
 頂上や殊に野菊の吹かれ居り
           梟(ずく)淋し人の如くに瞑る時(猿蓑)
 原    信郎   円虹を足下にしたる一万尺(2021.9.12)
           味噌汁に鯨を入れる大暑かな(2018.9.3)
            一ところ銀漢を断つ槍ヶ岳(2015.8.24)
 原    峰子  
菊を焚く菊のかをりをまとひつつ(2024.1.15)
           病む友の既読待たるる夜長かな(2024.1.15)
           夏負けて死ぬる力もなかりけり(2023.10.9)
           言いかけて後呑み込みて恵方巻(2022.3.28)
           弁慶のごと向日葵立ち枯るる(2021.9.27)
           戦争を知らぬ陛下の終戦忌(2021.9.20)
           婆かんじき(漢字)やアシモのやうに歩き出す(2018.3.26)
           婆シャツも婆も乾きし小春かな(2016.1.25)

 原     裕   初冬のけはひにあそぶ竹と月
           子の母のわが妻のこゑ野に遊ぶ

 原  コウ子
   蛍火の飛ぶ一つだに相寄らず
           立待やただ白雲の漠々と(季のうた)
           一炊の夢われかも桃の花

 原田 喜ノ作  
剣豪のごと除雪夫の頼もしき(、2013.10.7)
           いくさ凧見得を切りつつ入水せり(、2014.8.25)
 
橋間(月)石朱明螻蛄の夜どこかに深い穴がある
 橋本  鶏二 
 旅の靴黒穂を燃やす火を跨ぐ
 橋  かん石
   陰干しにせよ魂もぜんまいも
            銀河系のとある酒場のヒヤシンス
 
張戸シゲ子   喪の明けて綻び初めし福寿草(2019.3.11)
 萩原  豊彦
  夕噴水の祈る手となる爆心地 (NHK俳句 2012年6月)


 平子  公一 日溜まりはしあはせだまり百千鳥(季のうた)
 広瀬  修平
  一月の尻尾に春がついてくる(2022.2.21)
 広川 ミエ   桐の花空の青さをなほ深め(2022.6.27)
 
広瀬  直人  青麦を来る朝風のはやさ見ゆ 
 広瀬  直人  雪解けて萱の根っこを洗い出す
 広瀬  町子  風鈴の鳴ってこの家に誰も居ず(NHK俳句 2012年11月)
 平井  照敏  啓蟄(けいちつ)の虫のことごとく裸足なり
 春川  園子 今日もなほ夢を抱きて青き踏む
 轡(ひき)田 進
梅咲き満ちて息をひそめるさくらかな
 日下野仁美  里山は風の遊び場木の実落つ
 日野  草城 
日おもてにあればはなやか冬紅葉
          ものの種にぎればいのちひしめける

 曰田  亜波
  けくけく蛙かろかろ蛙夜一夜
 平田  冬か  長女の樹次女の樹桐の花咲けり(季のうた)
          滴りの大小はなし遅速あり

 桧山 哲彦  
初蝶の開けゆく風の隙間かな(季のうた)
 広渡  敬雄 
たそがれの菜の花明り遠賀川
 平畑  静塔 
山や野を歩き元日熟睡す
          徐々にゝ月下の俘虜として進む
          青空はどこまでも逃げず炭を焼く

 平野  撫子 
うつむいたままでは春に気付けない(2020.3.15 川柳)
 平野  桑陰
  パンジーの紫ばかり金の蕊
 平沢  陽子  梅露天湯に赤子を浮かす山さくら


 フ ジ モン  短夜や付録ラジオの半田付け
 布施伊夜子 
灌仏会和毛(にこげ)脱ぐもの野に山に(季のうた)
 深見けん二  囀りの一羽なれどもよくひびき
          大方の枝見えて来し落葉かな
 深井  嘉久 
人生の本番を生き春を待つ(2021.2.16)
          春風や全ては過去のこととなり(2017.5.1)

 深川 正弘  
冬銀河切に生きよと寂聴往く(2021.12.27)
          名前のみ残りし村の萱苅場(2019.11.29)

 深澤  暁子 
せせらぎに日の斑こぼるるる初桜
 福神  規子 
而して以下同文と卒業す
 福永  法弘 
夭折はすでに叶はず梨の花
          ふるさとの案山子に誰何されにけり
          ちちははの旬なる昭和福寿草

 藤野 可織  
不意の空き地の不意の広さや春日傘
 藤井美智子
 旅に出る力のこして草むしる(2013.9.8)

 藤田  湘子
  あめんぼと雨とあめんぼと雨と(俳句2009・12月 )
          これよりは花の十日ぞこころせよ(「去来の花」昭和61)
 福田  寥汀
 帰らざる山の子呼べば流れ星
          呼べばとて泣けばとて秋水ただ一途
          啄木鳥よ汝も垂直登攀者
          雲海の音なき怒濤尾根を越え
           福寿草家族のごとくかたまれり
 藤木  清子  戦死せり三十二枚の歯をそろへ
 藤木  倶子
  野遊びや足占(あうら)の吉を願ひつつ(角俳 2016.5)
          みずうみの揺れては春の鴨翔(た)たす
 藤崎  久を  大阿蘇の霞の端に遊びけり  
 福嶋 隆男  敗荷や水面に翳を正しけり(2023.11.6)
          荒縄の表舞台や雪囲(2020.12.13)
          汚れなき白壁が好き赤蜻蛉(2020.11.8)
          返事する家電ひとり身梅雨寒し(2019.7.29)
          けがれなき眼がふたつさくらんぼ(2019.7.21)
          老いし村老いし早乙女五六人
(2019.7.29)
 福住つゆ子
  年の夜や安堵もあれば淋しさも(2022.1.17)
 
福田  若之  てざわりがあじさいをばらばらに知る
          ながれぼしそれをながびかせることば

 福永 鳴風  
白桃の荷を解くまでもなく匂ふ(季のうた)
 福永  法弘
  ふるさとの案山子に誰何されにけり (俳句2007・10月)

 二川 茂徳  
ひとつひとつ祈るかたちに稲の花(季のうた)*午前中2時間咲く
          田植果てしづかに離る水と土(季のうた)

 福永  耕二 
新宿ははるかなる墓碑鳥渡る
 古川 嘉明  雉の眸へやさしく吾の瞳を返す(2018.4.16)
 古川 よし秋  日盛りや模範囚のごと退院す(2023.4.16)
          脳トレの新聞を読む春の蠅(2022.4.11)
          妙案もなきに口出懐手(2018.2.19)
          仕舞ふもの支度するもの今朝の秋(2017.10.16)

 船越 淑子  
まんさくの縺れをほぐす山の風(季の歌)
 古河 とも子
  たぷたぷと溜池かかへ山笑ふ  
 藤本美和子
  風鈴が鳴ってちちははをらぬ家
          芋の露とどまりがたくとどまりぬ(季のうた)

          のひらをあゆませてゐるほたるかな (角俳2011・9月 「鞍馬」)
          ほうたるの力抜くとき光りたる
(角俳2011・9月 「鞍馬」)
  深井  嘉久 静まりて大雪の夜となりにけり( 2015.1.26)
  藤井   渡  天体の中に一粒涼み台(2023.9.25)
          漆黒のくちばし開く酷暑かな
(2021.9.20)
          この先もくらし静かに枇杷の花
(2021.1.11)
  藤井 昭明  尊厳死軽く話して衣被(N俳 2012.9月)
 
藤沢二千男 小春日をもつたいなくももて余す
(N俳 2012.10月)


 本間 清仁  百鬼夜行中止連絡熱帯夜((2023.9.18)
 保坂 藤恵
  銀漢やマイムマイムの右隣
(2020.9.13)俳句プラス
 凡    兆  
野馬(かけうま)に子供あそばす狐哉
          市中(まちなか)は物のにほひや夏の月
          まねきまねき枴(あふご)の先の薄かな
          古寺の簀子(すのこ)も青し冬がまえ
 坊城  俊樹  眠ることなきマンボウの春の夢
 星野麥丘人  黄水仙雀はいつも遊び好き
 星野  光二  一瞬とは天よりこぼる流れ星(俳句2014・3月 )
 
堀田   薫  牡丹雪水に映りて水に落つ
 堀本  裕樹  大いなる嵌め殺し窓鳥雲に
          火蛾落ちて夜の濁音となりにけり
          冬蜂の事切れてすぐ吹かれけり

 堀井   實 
共存は無理と詫びつつ草むしる(2018.7.2)
 堀口  星眠
 
冴え返るささくれ妙義紺青に
 星野  三興  蒼穹を鏡にしたる花辛夷(、2014.4.28)
 星野  恒彦
 
大根を洗へば太くなりにけり(俳句2009・12月 )
 細谷  喨々  羽衣の雲一枚と今日の月
 細谷  源二 
赤とんぼみな母探すごと
 細野  立子  
赤とんぼとまればいよよ四辺澄み
 細木芒角星  
蔓むかご露よりもろくこぼれけり
 細井  将人  
枯木晴れ雨粒小僧跳び降りる
 

 正木 浩一  
夾竹桃白を激しき色とせり(季のうた)
 万   呼   
田の畝の豆つたひ行螢かな
 前川  紅婁  
敗戦日青空だけが無傷なり 
          夏蜜柑剥くや国家に爪立てて
          空蝉のすがりつきゐたる忠魂碑
          螢売り星のかけらも混ぜて売る

 前山 みち  さ行こう少し寒いぞ万歩計(2020.4.6)川柳
 増田  実   虹立つや越後の長き水平線(2023.6.11)
 
増田  吏  
かけちがふボタンどこまで憂国忌
 増成  栗人 
鶏頭のまつすぐに立つこころざし (角俳2014.11)
 的場  秀恭 
箱根駅伝富士はけろりと立見かな
 黛    執
  
分校の春のオルガンふがふがと
          春のゆふべは母の辺にあるごとし
          をちこちの水集ひ合ふ春野かな

          鷹渡るつばさの上も下も空

 間瀬 ひろ子 
東京てふ蜂の巣湧きたつ梅雨晴れ間
 丸田余志子
 
雀の鉄砲風にねらひの定まらず 
 松村碧(蒼)石
  白昼の闇したがへて葛咲けり
          鈴虫孵る甕にけむりの湧くごとし
          たわたわと薄氷に乗る鴨の脚

 松根東洋城  青蛙喉の白きに鳴きにけり
          あれ程の椋鳥をさまらし一樹かな

 松田 光一  
友達が沢山欲しい鯉のぼり(2019.5.20)川柳
 松田  徳江 
今落ちし団栗をバス轢きにけり
 松倉ゆずる
  健やかな糞して耕馬曳きはじむ
 松浦  敬親 
そんなにも空が好きかいひばりさん
 松村  多美  能弁の中の訥弁のかまど虫(俳句2009・12月 )   
 松浦  加古 
飛騨の子に銀河は近し川の音
 松本 てふこ 
おつぱいを三百並べ卒業式
 丸山智慧子 
蟲の声一斉に闇ふくらみて(2018.10.15)
          雪囲解くやしばらく畏まる(2018.4.16)

 丸山  歩  
充電に行くふる里の山笑ふ(2020.5.4) 川柳
 丸山  海道
  兎千生んで辛夷は花の木に
 松本  悦雄  砂利一つ零さぬダンプ日の盛り(2023.7.17 秋 俳壇賞)
          
秋桜すこしはなれて鶏舎かな(2020.9.7) 
           
 *評 鶏舎には秋桜が似合う
          放鷹やかうくうぼかん〇(たかたぬき)(2020.5.4)
          人の日や日にち薬のひとこひし(2018.1.22)
 
 松井   弓 
秋暑しぽつちり白き煮干しの目(2023.102)
          道凍てて原初の二足歩行かな(2023秋俳壇賞)
          お帰りとよう来なつたと白鳥に(2022.12.11)
          朝寒や画面は晴れのトウキョウに(2023.1.9)
          燕の子親のゐぬ間はしんとして(2022.8.1)
          道端の残雪を踏むわざと踏む(2022.3.8)
 
松尾  隆信  高くはるかに雪渓光る二十代 
          おにおこぜ徹底徹尾おにおこぜ 
          初富士や渾身で立つ一歳児
 
 松瀬  青〃
日盛りに蝶のふれ合ふ音すなり

 真鍋  呉夫  月を恋
(旧漢字)ふ露の一つとなりにけり(朝俳2012・1月)
 松原   到  星月夜妻よわが骨空へ撒け
 松原  昇平  
越の野に見渡す限り稲の花(2014・9.15)
 
町原  木佳 
ひつじ田や水あるところしづかな日
 松永 浮道  
夕焼雲より一片の炎落つ(季のうた)
 松山  蕗州 
看病の少し寝ておく小春かな(N俳 2012.10月)

 村山  三郎  昼顔の草もろともに倒れゐし


 宮田 恒雄  
玄関に鳴くちちろ虫入りなよ(2020.11.8)
          木に登りヤッホーと女児桜咲く(2019.5.27)

 宮崎  博司 
夏の月雲の浪間を航行す(2017.7.31)
 岬   雪夫  
まつすぐに草立ち上がる穀雨かな
 水澤 謙二  
病癒え善き人となり薔薇も咲く(2019.7.15)
 水田  光雄 
夏蝶の越ゆる国境検問所
 三田きえ子  
草の根に日のゆきわたる建国日(季のうた)
 三玉  一郎
  たましひのひとかたまりや蚊帳の中(季のうた)
          月光や線路にねぢのゆるみなし(N俳 2012.9月)

 三村  純也 
誘ひ合ひ誘ひ合ひては滴る(朝俳2003・6月)  
 三橋  敏雄  高空の誰もさはらぬ春の枝
          絶滅のかの狼を連れ歩く(
「真神」)
 宮下  興文 
原石の輝き放ち入園す(2023.6.11)
          野を駆けて弾む登校染み渡り(2019.4.1)
          鈍色の空温みをり木守柿(2018.2.4)
          鏡田に揺れる妙高山夏きたる(2016.6.26)
          婆さんや声かけ合ふて田草引く(2015.8.31)

 宮城 正勝  
この星に渚がありて五月来る(季のうた) 
 宮内  蘆村 
月が出て暗き足元稲運ぶ
 宮島ひでき  頑固ではあらず知恵生む胡桃かな
          人生に数多なる壁胡桃割る
          胡桃割る頭の固きぶきつちやう
          鬼胡桃火焔の土器の一欠片(樫の木)
          なかなかに胡桃掴めぬ足の指
          冗談の通ぢぬ胡桃聖少女
 
宮脇美智子
  世をすねて秘かに咲きぬ独活の花
 宮之原南泉  倖せは手のひらほどの花八手

 宮原  双馨  くたびれてぐしゃんと座るあたたかし
          空高し今日は嬉しき事ひとつ(、2013.10.14)
 味元 昭次  
薄氷(うすらい)や微笑みという不服従 (季のうた)
 南    孝
  
まだ若い気でゐる男水盗む  (角俳2010・8月) 
 水内  慶太  外にも出でよ春月のかく円かなる
 宮澤 君代  往来を渡る毛虫の早さかな(2021.9.6)
 宮坂  静生  冬麗といふ風呂敷のごときもの(季のうた)
          友達になれさうな初雀なり
          地球より青きよ綿虫の必死 朝俳2012・1月

          はらわたの熱きを恃み鳥渡る
 皆川  捷巳  ほうたるの星へ星へと上がりけり(2020.8.24)
 
皆川  盤水  田掻き馬たてかみの泥吹かれをり
 
          
山鳥の羽音つつぬけ桑畑 
 
 武藤 鉦二  空っぽの鳥小屋となり啓蟄なり
 武藤 洋一
  遠浅間一羽一閃夏燕 (角俳2010・8月)
 武藤のぶや 雪間より一瞬午後の初明かり (、2015.1.1)
 
村中のぶを こは一茶そは心平の青蛙
(季のうた)
 村上 鬼城 
小春日や石を噛みゐる赤蜻蛉
 村上喜代子 
水に映し天に映して松手入れ(季のうた)
 村上     
村祭ラジカセが笛担当す
 村上 鞆彦  風の木と書いて楓や五月来ぬ(俳句2017,1月)
 村山 枯水  己が代に荒せし棚田蕨とる(2020.7.9)
          雲切れて雪間へ日矢のやさしけり(2020.3.30)
            


 
目黒  俊夫  威しても威しの効かぬ蝮草(2015.9.7)

 
 本井  英   どの枇杷も色得ることを冀ふ(季のうた)
 本宮 哲郎  
一部粥二分粥日足伸びにけり(季のうた)
 
森岡華洲子  女子力といふことば大好き春立てり
 森 仮名恵  故郷の海の抱かれし帰省かな
 森   洋彦  
わけて土佐の維新史暗し竜馬の忌
 森   酒郎
  峡(かい)に来る嫁に総立ち葱坊主
 森賀  まり  風鈴や庭より入る母の家   (俳句2010・4月 ) 
 森田かずや  一筋に木曽谷をゆく秋気かな 
 森田美智子  生きてゐる者は生きよと春の風(角俳2011年「被災地にエール)  
 森本 際生  
生きるとは誰か傷つけ根切り虫
 森田   峠
  五体みな河豚雑炊にあたたまる(俳句2010・1月 )
 

 安木沢修風  
夜顔や夜の重さの在るところ(2023.9.25)
 野坡(やば)  
はき掃除してから椿散にけり
           行雲をねてゐてみるや夏座敷 (炭俵)

 野水(すい)  
一いろも動くものなき霜夜かな
 薬師寺彦介 
 湖に影をあやされ山眠る
 惟     然 
 更け行くや水田の上の天の川
 柳村  光寛 
 分骨は軽き手荷物天の川(2020.9.13)俳句プラス           
           雪嶺の三つ重なる国境(2016.2.8)
           弥彦山三日見ぬ間の深緑(句2014・6.30)
 
山崎  十生  
 冬銀河この上もなき砂時計
 山崎  宗鑑   手をついて哥(うた)申しあぐる蛙かな(「阿羅野」「芭蕉七部集})
 山崎千枝子   蟻も吾もただ一心に歩きをり
 
安里  道子   ずるずると空遠のく蟻地獄
 安原  貞室
   これはこれはとばかり花の吉野山
 矢島  渚男
 
 来る年のふくふくとあれ餅を搗く
           じゃが薯を植ゑる言葉を置くごとく
           蚯蚓ではなきもの何か哭いてをり(俳句2010・1月 )

            末枯れや雲の涯から津波きて 朝俳2012・1月
 山内  繭彦   一雨に風入れ替る秋彼岸
 山田 みづえ  駅時計光る今年も帰燕の日
 山田  浩子 
 凭(よ)る柱ありてふるさと成人祭(N俳 2013.1月)
 
山田真砂年   燕春月の搾らばほのと苦からん(季のうた)
 山田 径子   燕来る天はしがらみなき大河
 山田  牧  
  オクラ切るこちら流星製作所
 山田  弘子 
 雪女郎の眉をもらひし程の月
           蟷螂のみどりみづみづしく怒る

 
山田  彦徳   搗き立ての餅のやうなる炬燵猫(2013.3.18)
 山田    久   陽炎える忸怩大人のおむつ買ふ(2014・6.30
 
 山口  勘生   休耕地以下同文のつくしんぼ(2018.5.28)
 山口  優夢 
 心臓はひかりを知らず雪解川(季のうた)
           ポインセチアみんなが笑ふから笑ふ

 山口  昭男 
 滴りへ次の滴り追いつきぬ
 山口  草堂
   死に誘ふものの青さよ誘蛾灯
 山口  青邨
   こほろぎのこの一徹の貌を見よ
           一本の紅梅を愛でて年を経たり

 山口  誓子 
 つきぬけて天上の紺曼珠沙華
        
   海に出て木枯帰るところなし
 山口  青邨   蘭の名はマリリンモンロー唇唇唇
 矢島三栄代 
 春月や大路小路を抜けてゆく 
 谷中  隆子
   出遇はねばよかつた桜蕊(しべ)降る夜
 横山  昌佳
  銀漢や金剛石の爆ぜる音(2020.9.13)俳句プラス  
 横山  白虹 
 藤棚の下の浄土のこみ合へり
 横井千枝子 
 みな美しき頃の写真や風かをる

 八木  絵馬   白牡丹崩れつつなほロウ(漢字)たけて(季のうた)
 八木  忠栄
 
 満月や水平線から桃太郎
 結城   テイ   草取りや吾は心と遊ぶ時(2014.9.8)
 矢尻ゆきを   秋ぐもり負け戦かも投票す(2021.12.27)
 矢尻  幸夫 
 脛に疵いくつあるやら初湯して(2013.2.18)
 矢尻  幸夫   浄土とはかくあるものか蓮の花(2013.9.2)
 矢尻  幸夫   たとふれば男盛りの青田かな2014.9.8

 山下  美典   新緑やひそむ獣の繁殖期(角俳 2016.5)
           藤房の垂れの長さにある豪華(角俳 2016.5)
 
山根  真矢   夏掛けの赤子ふの字の形かな(季のうた)
 山下かず子   一回り尾小さな暮らし棗の実 
 山西  雅子   裏返るにいにい蝉の遠音かな
           楊梅の怖きほど生り人住まず
           丈高く実りて貧し小判草
            じゅいじゅいと日差しに声や芽吹山
            手に掬ふ加斗にぺらりと魚の尾

 山本   浩 
 思ふこと叶はず老いて年詰まる(2022.1.17)
           宇宙への話のはずむ良夜かな(2021.11.22)
 山本三樹夫  祭り子の母の手離しまた繋ぎ(季のうた)
 山本  直義  
廃道の先に廃村葛の花(2023.11.6)
 山本  紀文
  おのが影おのが踏みゆく月の道(2020.10.19)
 山本  洋子   紅梅やゆつくりともの言ふはよき( 季のうた)

           外海といふ大いなる春の闇
( 季のうた)
           大岩の前もうしろも秋の風
(俳句2011・11月)



 夕雨音瑞華
  破壊的快感放つ炎夏かな
 湯納持健一   草いきれ農舎の跡のさびトタン
           夏草に呑まれ僅かに人の棲む(2023.7.31)
 湯井  祥人  手刀を切りて秋刀魚に箸を付け(2022.10.31)
 
雪     芝   生酔をねぢすくめたる涼かな
 

 吉井 まき江   滂沱たる雨の一日終戦日(季のうた)
 
横山  昌佳   盗人の如く家出る夜長かな(2021.12.12)
           抽斗を空にして春迎へけり(2021.1.25)
           口笛も音楽なりと文化の日(2020.12.7)

 横澤  放川 
  咽喉にゐる仏を撫でて夜の秋
 吉田千嘉子   初春の波の洗ひし星揃ふ
 吉田石蕗女   その先を考へてゐる花筏(「俳句」2012 4月)
 吉田  晶子   地に触れて喜び勇む初霰(2024.1.15)
           石垣は権力の跡しぐれ来る(2022.2.7)
           廃業の店の名隠しきる茂(2017.8.21)
           
凍星の並びて落ちし町灯り
(2017.2.6)
           定刻に炎暑押し分け郵便夫
(2015.9.21)
 吉永 すみれ  
寒明くる一つ二つと水ゑくぼ
 好井  道子
   いつでもおかえり桜苗植ゑをりぬ
 

 
嵐    推   里人の臍落したるや田螺かな
 
嵐    蘭   笑にも泣にもにざる木槿かな
  嵐    雪
   下闇や地虫ながらの蝉の声
            真夜中やふりかはりたる天の川



 涼    菟   人として親知らずとは冷(すさま)じや
 
良    寛   のつぽりと師走も知らず弥彦山


 
露   せん   梅咲て人の怒りの悔ひもあり
 
路     通   芭蕉葉や何になれとや秋の風



 若月  柳子  さはあれど初めの雪のいとほしや(2024.1.15)
 若月  獅子 
 かなかなや鬼のさがしに来る夕べ(2023.11.6)
 若山  知美 
 雪を搔く薄墨色の闇の中(2021.2.)
 和知  喜八   雪降つて白鳥の巨花湖に浮く
             
 (「同齢」51.4 水原 「越のうた散歩」より) 
 渡辺誠一郎 
 原子炉を遮ぎるたとえば白障子
 
渡辺  和弘   蝶と吾距離一尋を保ちゆく(2023.7.17)
           握手する気持ちで書きし年賀状(2021.1.11)
           人生は山あり谷あり友のあり(2020.4.6)川柳
           この山のエキスなりたる水を飲む(2019..8.5)
           柴に火がつかぬか炎暑の金次郎(2018.9.3

 渡辺  松男  
ががんぼの脚のはづれてから本気
           揚がるたび河口のみゆる花火かな
           りんくわくのなくなるまでをつららかな(隕石)

 渡辺千枝子  
建国の日の大槻の立ち姿(季のうた)
 渡辺  洋子 
 ふるさとの灯りのように柿熟るる (2017.11.20)
 渡   純枝
   生みたての卵のように朴の花 (角俳2010・5月)
 渡辺  白泉   戦争が廊下の奥に立つてゐた(角俳2011・5月 
            渡辺誠一郎撰

           食ひはぐれなき面構へ成人式

 渡辺  桂子 
 椎茸の耳立ててゐる良夜かな
 脇   祥一
   畦塗るや水攻めの城描きつつ(角俳2010・4月  
          
 畑打に恩赦のごとき日和かな(角俳2010・4月 )             
 鷲谷七菜子
   あめつちの気の満ちてきし牡丹かな
           立夏しづかに木の花の散る音か
           寒月のいつのぼりゐし高さかな

 
和田  知子   男ぶりまさる栗より剥きはじむ
 
和田    桃   昼からは日の照る畑大根引く(2017.11.12)
 
和田    孝   しぐるるや円空仏の鉈あとに
(N俳 2012.10月)
 和田  悟郎   山眠る下弦の月と金星と(角俳2014・1月 「時間の光」
           枯れきって枯れていず枯れ芒