沢沿いを行く
桂の林 赤ちゃんのような甘い香りがあたりいっぱいに漂う
猿が そして鹿が迎えてくれる
両手を沢水に浸し その冷たさを楽しむ
その冷たさが血管を通して身体(からだ)全体に及ぶ
沢を渡る
突如、尾根道にかかる
急坂にあえぎつつ
急がず 一歩また一歩
上は見ない 足元の一歩一歩の確実な歩みが自慢だ
ゆっくり ゆっくり登る
確かな手ごたえを感じる 充実の時
頂は見えない
頂上到達の思い胸に
大石にしがみつき
シラビソの倒木を踏み越え
ひたすらに登る
四十雀のさえずりを聞く
シラビソの巨木を仰ぎ見る
足下に苧環の花が美しい
汗が吹き出す
頂上に立つ
どこまでも続く南アルプスの山並み
ここは 風がちがう
ここは 光がちがう
匂いが 音が 時間がちがう
大きな自然と一体となれた悦びに酔う
夜を迎える
満点の星空との逢瀬を愉しむ
夜明け前の出立
遠く 暗闇の地平に
富士山のシルエット
足下にきらっと光る カンテラか
薄明の地平は 東雲の空へと変わり
透き通った 真っ青な空が現れる
そこに オレンジ色が加わる
赤い太陽が現れる
１日の始まり
やがて オレンッジ色の朝日は 聖岳を染める
ハイマツの朝露は おびただしい数の宝石と化す
いっきに下るアルプス１万尺
・・・・・・・
沢音が聞こえてくる ３合目
沢音が近づく ２合目
同じ沢音だけの １合目
沢にたどり着く
沢水で顔を洗い からだを清める
安全登山を神に感謝
われとわが身を祝福する
体の疲れは 満たされた思いが消し去っている
